封印家電マニュアル
ラベンダーの香りが漂う美しい庭園で、紫色の髪をした少女ミルカは、金色の装飾が施された重厚な本を両手で抱えながら、深刻な顔でつぶやいた。
通りかかった庭師の青年が、その物々しい雰囲気にゴクリと唾を飲み込む。
「ミルカ様、それは伝説の禁術書では……!」
「いいえ。これは本日我が家に導入された、全自動ドラム式洗濯乾燥機の取扱説明書よ」
「は?」
ミルカは眉間を険しくさせ、本の表紙にある複雑な紋章を指さした。
「これ、液晶タッチパネルの配置図らしいわ。チャイルドロック解除には血の契約(指紋認証)が必要で、脱水モードの呪文は古のエルフ語で三小節もあるのよ」
「そんな家電、返品した方がよくないですか!?」
「ダメよ。もう泥だらけの靴下を中に放り込んじゃったもの。早く起動しないと、中で靴下が永遠の闇に葬られるって、この分厚い説明書の三ページ目に書いてあるわ」
「呪われた洗濯機じゃないですか!」
ミルカはすうっと息を吸い、真剣な眼差しで本を睨みつけた。
「やるわよ。……出よ、清らかなる激流! すすぎは二回でお願い!」
美しき庭に、ピピッ、ピーという、妙にのどかなお風呂が沸いた時のような電子音が虚しく響き渡った。
呪文
入力なし