僕と怪獣
【僕と怪獣】
ある集合団地に男の子がいました。
名前はあっちゃん。皆そう呼んでくれます。
あっちゃんは小さな頃から幼なじみのマホちゃんとミキちゃんと遊んでいました。
小学生になってもあっちゃんが家に連れてくるのは女の子の友達ばかり。
少し気になったお母さんは、ある日
「みんなこういうので遊んでいるんでしょ?」
とウルトラ7兄弟のフィギュアのセットを買ってくれました。
あっちゃんは7兄弟を抱えて公園に行きました。
男の子達が集まって来て
「ウルトラ7兄弟じゃん!エースかっこいいよな!」って。
あっちゃんは自分がウルトラマンになった気分で得意気でした。
ある日、タカ君のお兄ちゃんが
「セブンかっこいいよな?俺の大事なバルタンと替えてやるよ!」と。
あっちゃんは少しモヤッとした事に自分でも理解できないまま
「いいよ…💦」
と言ってしまいました。
しばらくして、あっちゃんの様子に気づいたお母さんが
「あっちゃん、エースはいないの?」
と聞くと、あっちゃんは
「うん…ウルトラの国に帰った!……。」
と答えました。
兄弟はどんどんウルトラの国に帰って行きました。
ある日、お父さんとお母さんがお出かけから帰るとあっちゃんが一人で怪獣を抱えて椅子に座っていました。
お父さんが
「あつし、今日はウルトラマンで遊ばんのか?」
と聞くとあっちゃんは
「ウルトラマンなんかコイツより弱いんだから!」
と怪獣を抱えて…お父さんとお母さんの顔がぼやけて見えませんでした。
お母さんは困った顔をしてお父さんを見ました。
あっちゃんは
「コイツは強いんだぞ!口からもミサイルが…目からもビームがブワーって」
ブワーって出てきたのはあっちゃんの涙でした。
お父さんは何も言わずあっちゃんの顔をグシャッグシャッと力強く撫でました。お父さんの手は暖かく。
あっちゃんはまだ
「ブワーってブワーって!」
と止まりません。自分のかっこ悪い姿を掻き消そうとして。
その日の夜、お父さんとお風呂に入りました。
お父さんは
「あつ、ウルトラマン好きか?」
あっちゃんは恥ずかしそうに
「うん…好き…」と。
お父さんは
「好きならな…」
「ウルトラマン!だぁいすきーー!!って言うんやで?」
と大きな声で。
お父さんとウルトラセブンの歌を大きな声で歌いました。
あっちゃんは目を覚ますと体を起こしました。
まだ日が昇る前、横を見るとあっちゃんのお嫁さんはスースーと寝ています。
リビングに下りたあっちゃんはタバコに火をつけました。
あっちゃんのお父さんは少し前に西の旅に出ました。
旅に出る前、お父さんはあっちゃんの事がわからなくなって。
あっちゃんは
「まだこんなん残ってたんや…」と少し笑って。
思い出せない、思い出さないと思っていた暖かい記憶でした。
呪文
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