★雫太夫
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ありがとうございました♪
今は令和。
俺は一枚の恐ろしく古びて色あせた美人画の切れ端を持っている。絵の具はすでにくすみ、輪郭はところどころ掠れている。紙の角はちぎれ、湿気で波打ち、裏面には虫食いの跡まであった。けれど、不思議と捨てる気にはなれなかった。
小さく但し書きのようなものが書いてあるが無論読むことが出来ない。
この絵は、実家の蔵に代々伝わってきたものらしい。おじいさんの、そのまたおじいさんの代から、ずっと仕舞われていたものだという。
描かれているのは、髪を高く結い上げ、簪をいくつも差した女性。細い眉、涼しげな目元、打掛の柄も描かれている。こちらを見て優しく微笑む口元。どことなく品のある顔立ちだった。
裏には、墨で小さく名前が記されていた。
「雫太夫」。太夫。つまり、吉原の遊女――それも最上位。カンスト身分ということになる。
ネットで「雫太夫」という名を検索した。江戸時代の遊女の名鑑、花魁に関する文献、地方史まで調べたが、確かな記録は見つからなかった。
もしかすると、町人が想像で描いた架空の美人画なのかもしれない。浮世絵や版本の美人画には、実在しない理想の女性像が多く描かれていたらしい。
だとすれば、この「雫」も誰かの妄想、夢の中の花魁だったのだろうか。
けれど、それにしては妙に生々しい絵だった。美しさの中に、実在の重みがある…ように見える。
着物の皺、指の角度、微笑みの温度までが、なぜかリアルだった。これは、ただの空想画ではない。そう思わせる何かが、この古びた紙切れにはあった。
この雫という名の女が、実際に吉原にいたとしたら――その時代を生きた、ひとりの人間だったとしたら――俺の先祖とはどういう関係だったんだろうか。
家に伝わっていたということは、描いたのがご先祖様なのか。それとも、彼女の何かを想っていた人が、手元に置いていたのか。
いずれにせよ、こんな絵を代々残してるとは、先祖もずいぶん業が深いというか……
俺の先祖も江戸のオタクだったのかよ と、ほくそ笑む。
雫という女は、実在したのか。
なぜ、この家に彼女の絵が残されていたのか。
答えは今もわからないままだが、それでもこの絵だけは、机の引き出しからじっとこちらを見つめている。
まるで、時を越えて、何かを伝えようとしているように。
俺は頭の中でこの版紙をカラー化してみた。
そしてつぶやく。。。雫ちゃんかわいいね。
自分で言った言葉に一瞬めまいがして、そっと引き出しを閉めた。
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