Cassandra
怒声と共に、握り拳が机に叩き付けられる。
――…彼女は情報分析官だ。現場が必死に掻き集めてきた玉石混淆の様々な情報を整理し、纏めたそれを上層部へと報告する。
今回も、いつものようにヒノイから得られた機密情報を精査していた。
その中に、奇妙なほど目を惹いた一文があった。
「グランシュライデは善悪の調和が取れていた世界だったが、災害等をきっかけに悪の心が膨らんでしまったことで力を付けた悪の神によって滅ぼされた」
奇妙な一文だ。前後の脈絡も何もなく、何よりフェンテスと同じく別世界から転移してきたと思われるヒノイで、どうしてこんな情報が断片的にポツンと存在しているのだろうか。
まるで真っ白なジグソーパズルのピースの山の中に、一つだけ他のピースと嚙み合わない奇妙なカタチをしたピースが紛れ込んでいたかのよう。
通常なら、それは無意味なノイズとして除去すべきものだ。
必要とされているのは現時点で最大の脅威であるヒノイについての情報であり、それ以外の無意味なデータに拘泥する余裕などどこにもない。
彼女も、それはわかっている。わかってはいるが、妙に引っかかった。
そもそもの開戦のきっかけとなった、国中に突如として「世界を…守って…」という声が聞こえた一件。
あの「声」の主は一体何なのだ?
善の神か? それとも、悪の神か?
「世界を守って」という声の主は、本当に平和を望んでいるのか?
もしあの「声」がなければ、ここまでヒノイとの戦乱が急激に拡大しただろうか?
疑わしい。何もかもが奇妙に御膳立てされているかのように、フェンタスも急速に人心が荒廃しつつある。
当然だ。いきなり見知らぬ別世界に放り込まれた途端に、百年以上も縁のなかった戦乱に巻き込まれて不安に思わないわけがない。既に一部の軍事産業や過激な技術者を中心とした一部が暴走に近い状態にある。倫理よりも軍事的合理性に偏った危険な兵器が次々に戦場に投入されている。
そして、その点ではヒノイも同様だ。報告によればヒノイ維新革新同盟なる危険な思想団体が急速に勢力を伸ばしつつあるらしい。
これらの情報を纏めて、彼女は上層部に警告した。
「グランシュライデを滅ぼした悪の神は、異世界から新たな獲物を得ようとした可能性がある」
「拡大する混乱と社会不安が人心を荒廃させ、悪の心を肥大させる」
「悪の神がそれにより更なる力を得ようと目論んでいるとしたら、現在の状況は全てその企みの一部である可能性が高い」
しかし、それに対する上層部の反応は決してはかばかしいものではなかった。むしろ、その逆だった。
「いつから君は馬鹿馬鹿しいオカルティズムにかぶれるようになったのかね」
「情報を扱うべきものが、こんな下らない噂に踊らされるようでは困る」
「自分の立場をわきまえたまえ。君に与えられた任務は、こんな荒唐無稽な話を集めるためではない」
わかっている。そんなことは偉そうな御高説を賜らずとも理解している。
けれども、誰かが警告しなければ、誰かが声を上げなければ、せめてこの混乱の坩堝から抜け出す手がかりの一つになればと、それだけを考えて行動したというのに――!!
「あの大馬鹿ども! 分からず屋ども!!」
悲劇の預言者、カッサンドラは幾度もトロイアの滅亡を警告したが、狂人の戯言と誰もが聞き流した。
それと同じように、彼女の報告は無意味なものとしてゴミ箱に投げ捨てられた。
この警告は単なる杞憂でしかないのか、それとも、あるいは――。
【設定引用】
renu様作『捨て駒』
https://www.chichi-pui.com/posts/83e55620-ad82-4992-800f-77a2b54335f2/
エツナカ様作『ヒノイの闇~台頭するヒノイ維新革新同盟~』
https://www.chichi-pui.com/posts/8b2dc09d-aeef-4e39-be3a-d20084e67ec4/
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