本日のランチ
盛夏の昼、目の前に置かれたのは、涼やかなガラス鉢の一膳です。
箸で持ち上げた稲庭うどんは、細身でありながら平らな麺肌を持ち、冷たい浅利だしをまとって、つるりと喉へ滑り込みます。
だしの第一印象は実に静かです。しかし、その奥から浅利の潮気と旨みがじわりと広がり、薄口醤油の端正な塩気が味の輪郭を整えています。
湯むきされた完熟トマトは、箸を入れるとやわらかくほどけ、瑞々しい酸味をだしの中へゆっくりと溶かしていきます。
貝の旨みとトマトの酸味。一見すると意外な取り合わせですが、互いを押し退けることなく、夏の空気に似合う軽やかな余韻を作っています。
殻付きの浅利だけでなく、麺の間に添えられたむき身にも、ふっくらとした弾力と濃い旨みが残っていました。
中央に置かれた針生姜を少し崩せば、細い辛みが冷たい汁を引き締め、青ねぎと青じその香りが後口を清らかに整えます。
添えられたオクラと若布の土佐酢和えは、粘りと歯ざわりの対比が心地よく、小さな出汁巻き卵の温かな甘みが冷製の一膳に穏やかな休止符を添えます。
昨日の天ぷらが衣の香りで夏を描いた料理なら、今日は冷えた麺と澄んだ貝だしで、盛夏の暑さを静かに受け流す料理です。
食欲が熱気に押されがちな日にも、自然と次のひと口へ箸が伸びる。派手さではなく、温度とだしの設計で印象を残す、涼味豊かな御膳でした。
次回予告:次回は「牛肉とモロヘイヤの辛子醤油炒め御膳」。冷たい浅利だしの余韻から一転、熱い鍋肌で炒めた牛肉と、辛子醤油を抱くモロヘイヤの深い青みを訪ねます。
田嶋達郎
呪文
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