眼鏡ネコ民ちゃんの非実在モンスター講座+α
今回はファンタジー的には定番だけど、ニドヴァル大陸には『いない』モンスターについて。
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「あ……またモンスターのことについて聞きたいんですか……? 今回はどんなモンスターを……?」
「え……? ヴァンパイア……? いませんよ、そんなモンスター。ブラッド・ヴァインを始めとして、人間や動物の血液を補助的な栄養源とするモンスターは居ますけど、完全なヒューマノイドで社会性を持ってるとか、それは人間とどう違うんですか?」
「うーん……ガレウム大陸の伝承でそういう怪異が語り継がれている、というのは知ってはいますが……恐らく、残忍なことで知られた人物が伝聞によってそのように解釈されたと考えるのが普通でしょう。血液のみを栄養源とした場合、人間程度の体躯を持つ生物はかなりの量を摂取しないと生命を維持できませんし。それに血液だけでは生存に必要な栄養素も確保できませんから……そんな生態を持つ生き物がいたら、是非会ってみたいものですよ」
「サ、サキュバス……!? それっ、聞きますっ!? あー……その……確かに、冒険者の間ではしばしば噂になっている……と聞いたことがあります」
「なんでも、『人知れぬ奥地に住み、訪れた男性に極上の快楽を与える』……とかなんとか……でも、遭遇例も非常に曖昧なものばかりです。場所もバラバラ、噂の内容も相まって、具体的な情報は一切ありません」
「……思うに、冒険中のストレス等がもたらした妄想や夢であると思われます。そもそも、そんなモンスターがいたとして目的は何ですか? 単に……その、そういうことをするだけじゃなくて、他の目的がきっとあるはずです。例えば……捕食行動とか。一部の昆虫でもありますよね? 交配後に雌が雄を食べてしまうという事が……」
「それなのに目撃情報があるということは……そういうことです。あの……男の人は命の危険を感じるとそういう気分になりやすい、とも言いますから……過酷な状況から逃避するためにそんな妄想をして、それが現実と区別できなくなったケース……それがサキュバスの正体だと思っています」
「正直、信憑性で言うならドラゴンの方が数段上です。目撃例に一貫性がありますし。サキュバス関係の証言はもう本当にてんでバラバラで、一貫性が無いんですよ……同じ人に同じ時のことを聞いてもブレがありますし、とても信頼できる情報とは言えません」
「歓楽街だと、『サキュバス体験』とかいうものがあるらしいですけど……あぁもうっ! これ以上言わせないでくださいっ! サキュバスはいない、いいですねっ!?」
「スケルトン、ゾンビ……アンデッド? 死体が動いたらもうそれは死体じゃないですよ……? 魔法でいくらか動かすことはできますが、歩かせるだけでも非常に困難だと聞いたことがあります。ましてや攻撃的な行動だなんて……」
「……でも、時折『死者を蘇らせるマジックアイテム』についての噂は聞いたことはあります……専門外なので詳しくは知りませんが……あっ! もしかしたらあちらの方ならご存じかもしれませんよ!?」
「知り合いではないのですが、結構有名な方です。なんでもエルヴェンタリア皇国史上最年少メイガスだとか……珍しいですよね、そんなにすごい人が冒険者やってるだなんて。私なんかはとても恐れ多くて、話しかけたり出来ませんけど……魔法のことは、専門家に聞いてみるのが一番だと思いますよ?」
「……死者蘇生の魔法? 貴方、それ本気で聞いてるの? 何のために? 理由によってはエルヴェンタリア当局に通報するわよ? 『あの魔法』はそれほど危険かつ冒涜的なのを理解してる?」
「はぁ……まぁ今回だけ特別に教えてあげるわ……かつて、巨人戦争期において死者蘇生の魔法は確かに存在し、実戦投入すらされたと伝わっているわ……もう1000年以上も前の話だけどね。『ネクロ・リザレクション』、当時最高峰の魔法であり……使用開始された直後に封印指定を受けた魔法よ」
「知ってるとは思うけど、エルフは長寿である代わりに成長も遅いし、そもそも伝統魔法も習得に時間がかかるわ。故に、大規模な戦役でどうしても人員の消耗が避けられない状況だと、エルフは継戦能力に乏しいという部分があるわ。巨人戦争でもそうだったし……1000年以上経過した簒奪戦争でもその弱点は変わらなかったわね」
「それで、巨人戦争期の宮廷魔導師達はこう考えたわ……『戦死した者たちを蘇らせれば、再度戦力として使用できる』と……悍ましい思考よね、追いつめられるとそういう思考に至る点は同じエルフ族として空恐ろしく思うわ」
「そうして開発された死者蘇生呪文『ネクロ・リザレクション』は、治癒魔法と並行して死者の体内に残存しているマナを強制的に活性化することで、一度死亡した者を生き返らせる……そういう魔法よ。もっとも、現在じゃあ治癒魔法も使用者は極めて稀だし、そもそもこんな高度の魔法を並行使用できるほどマナ環境が豊かではないから再現不可能なのは不幸中の幸いね」
「……死者が蘇るなら、どうしてそんな言い方するのかですって? 実際に使用して分かったことだけど……この魔法は厳密にいえば蘇生するものではないの。言うなれば仮初の生命を与え、魂を摩耗させる魔法だったのよ」
「蘇生したとしても、丸1日正気でいられたら幸運よ。短ければ半日で意識の混濁が発生して、自分が誰なのかも思い出しにくくなるわ。2-3日も経てば人間らしい行動は出来なくなる……体組織も崩壊を始め、理性は消失して攻撃衝動や本能的行動を元に暴れまわる、生きる屍と化すのよ」
「その凄惨な光景を目の当たりにしたエルヴェンタリアは、即座に『ネクロ・リザレクション』を使用禁止にし、封印魔法に指定されたわ。『スピリット・ボム』と同じようにね……まぁ今となっては術式すら定かじゃないけど、当時開発に携わっていた魔導師がこの魔法に根差したマジックアイテムを作っていた、なんて確率はゼロとは断言できない。だから、時折『死者蘇生のマジックアイテム』なんて噂が出てくるのかもしれないわね」
「それと、ろくでもない魔法使いが『ネクロ・リザレクション』の後継魔法を独自に研究している可能性も捨てきれないわ。今の環境だと完成したとしても相当な劣化版だとは思うけど……それでも倫理や尊厳を踏みにじる魔法に違いないはずよ。だから、そういう話を聞いたら治安当局や財団本部に連絡しなさいよ? 私宛てでも……まぁ、いいけれど?」
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呪文
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