【夢エリ】エピローグ - 朝焼けの平原 【ゆるコラボ終了宣言】
夢幻宮に突入してから何日が経ったのだろうか。妖気や幻影、不思議な夜の光に満ちたあの魔の宮殿を駆け抜けた後では、陽の光がことのほか美しく見えた。
騎士エリアーニャは遊撃部隊の一同を見渡した。夢幻宮の崩壊を免れ、なんとか無事に全員が逃げ延びた。ある者は徒歩、ある者は魔法、様々な方法で。突然現れた観測者ユリアンという魔法使いが何人かに力を貸してくれた。
かつては強敵だった常夜将軍の“神龍の巫女”アマリリアの使役龍...神龍ダンテウスが支配の力から解放された後、その大きな体を貸してくれた。龍の背に乗って脱出してきたメンバーはこの経験が気に入ったらしく、また巨大な東洋龍の背中に乗ったり降りたりを繰り返して遊んでいる。
傷ついた者にはプリーストのムツキニアが治癒の呪文を掛けて回り、オダンゴ姫がオレンジジュースを配って回っていた。
休んでいる者もいれば、激戦を潜り抜けた武器の手入れをしているものもいた。エリアーニャの自称影武者を名乗るミミアーニャに至っては、棍棒代わりにしてきた大きなパンのような何かを、誰かに頼んで火で炙ろうとしている。
謎と幻に満ちた夢幻宮では様々な出来事と戦いがあり、様々な力が役に立った。陽光の騎士キサラーヌや青髪の剣士のような、武器に長じた者。武術家ランランや猫娘のように、素手でも戦える者。いつもの魔女さんを名乗る爆炎魔術の使い手のような、魔法に長じた者。
それだけではなかった。隠密や密偵、間諜を主とする者たちが得てきた様々な情報も、この魔宮攻略には大いに役に立った。特に“隠密の魔女”カナビスがもたらした常夜将軍の重要情報、大きな危険を冒し“暗黒司祭”ナギシアとして闇の深部に潜入していた“献身の間諜”ナギシアがもたらした情報の数々は、遊撃部隊にとって剣よりも大きな価値を持っていた。
ウサ王国の正規軍では見ることのない、奇妙な混成部隊だった。エリアーニャとキサラーヌ、自称影武者のミミアーニャや衛兵クロウサギのようなウサ王国出身の者。姫様近衛騎士隊や司祭ムツキニア、魔法剣士サナを始めとするコン神聖王国組。
黒猫騎士カペラニカや第22遊撃小隊組のようなクロニャンコ帝国組。人間族の諸王国からやってきた、歌と舞いを司る5人組。
さらにほかの国や、傭兵に流浪の者、遠い異国の者。混成部隊だったからこそ、この奪還作戦を成し遂げることができたのだ。
「みんな、改めて聞いてほしい。この遊撃部隊の指揮官として...そしてウサ王国の円卓騎士団を代表して、改めて礼を言おう。
王女奪還の作戦が成功したのは、君たちひとりひとりのお陰、そして今この場にいない協力者たち全員のお陰だ。
君たちの名は物語に刻まれ、吟遊詩人によって語り継がれるだろう。我がウサ王国は君たちに協力を約束する。
そしてこれは..人間族を含めた諸王国の者達が共に剣を揃え、共に抜剣した時、より大きな事を成し遂げられることの何よりの証だ。
諸国の友好関係改善に、大きな力となるだろう」
思い思いの表情で騎士エリアーニャの言葉を聞く各国の勇士たちを見渡しながら、騎士エリアーニャは幻影の魔宮で起こった数々の戦いを思い出した。様々な魔物との戦い。そして名のある者達との戦い。
戦いの中、道案内をしてくれた謎のお化けさんと姫様近衛騎士隊の5名の奮闘により、カエデニア姫の幽閉されていた場所は比較的早期に発見された。姫君にナイフを突きつけ、盾にしてくるような輩が出てくる前に、早期に身柄を確保できたのは幸運だった。宮廷に潜んでいた誰かが手引きをしてくれたのかもしれない。
常夜将軍以外では思わぬ伏兵だった魔王側近“変幻の”アイコーンと水属性の剣士が早期に交戦。しかしかの剣士の腕を持ってしてもこの思わぬ強敵とは決着がつかず、アイコーンは逃亡した。
早期に存在が確認された常夜将軍、魔王の右腕アオイーヌについては武術家ランランが発見。捕えられていた師匠のリンリンを助け出し、師匠と師弟の2対1での交戦となった。だが2人がかりでもこの将軍は完全には斃せず、将軍アオイーヌが一旦退いた。
名前が判明した常夜将軍が全部で16人。だが「常夜将軍十三将」とは別に数えることが分かった異能の3将“雪龍剣三座”(せつりゅうけんさんざ)の3人の攻略には、密偵たちのもたらした重要情報が大いに役立った。
隠密の魔女カナビスが危険を冒して得た最重要情報...将軍“翠玉剣”のジュネティアの出自と魔王との密約の内容、そして滅んで久しい緑猫の王国の民や高貴な血筋の者によく効くという希少な古代の魔香料“魔タタビ”は黒猫カペラニカの手に渡り、馬を駆って魔宮を走ったカペラニカは、遊撃部隊の本体と合流に成功した。
再度の交戦で、あの翠玉剣の踊るような剣舞が遊撃部隊の面々に襲い掛かろうとした時...魔香料の小袋は開かれた。
効果は絶大だった。香りを嗅いだとたん、緑の猫耳剣士は本当に動きを止め、まるで本物の猫のようにそちらを向いたのだ。魔剣のレイピアを落とされてやっと我に返るというほどの効果だった。その後の説得が功を奏し、ジュネティアは魔王の宮廷を裏切ると遊撃部隊の側に付いた。
その剣士ジュネティアは魔宮で命を落とすわけでもなく...遊撃部隊の面々と一緒に休んでいた。特に落ち込むでもなく、草原に寝転ぶと手足を広げ、何やらあっけらかんとした表情で美しい空を見上げている。日なたぼっこでもしているかのような風情だった。魔王に協力すれば世界の半分をやる...そんな約束が果たされるはずもないと、本人も薄々は分かっていたのかもしれない。
そんなごろごろしている緑の猫耳の剣士を...黒猫騎士カペラニカを始めとするクロニャンコ帝国組はちらちら見たり、何やらひそひそ話をしている。やはり帝国の下町では名のある英雄だったようだ。あの凄まじい魔法のレイピアでなく木剣でなら、手合わせをしてもよいかなと騎士エリアーニャは思った。
“雪龍剣三座”の2将め、“哀しみの雪姫”ことフユツバキ姫とは円卓騎士キサラーヌを始めとする数名が交戦。強力な冷気と幻影、過去に留まる無限の夢を見せる能力は強大だった。交戦したメンバーの何人かは、交錯する夢の情景の中で不思議な異世界の夢...東洋風の世界で何かと戦う物語の夢を見たと証言している。
だが最後は、冬を終わらせる太陽の如き光を取り戻した魔剣“陽光煌めく剣”が勝った。遊撃部隊には希望の光があるのだ。
入手した情報通り、将軍フユツバキはコン神聖王国の名のある一族の姫だった。最後は騎士キサラーヌたちの説得が通じ、その扇を下ろした姫は遊撃部隊に道を示したが...自分は崩壊する夢幻宮と運命を共にする道を選んだ。
その密かな想い人の名は最期まで明かされることはなかったが...姫は満足げな表情を浮かべ、逝ったという。
“雪龍剣三座”の3将め、“神龍の巫女”アマリリアとその使役する龍との戦いにおいても、密偵たちが得てきた情報は大いに役立った。巨大な神龍ダンテウスの猛攻撃をしのぎつつ将軍アマリリアの頭から呪いのヘアバンドを外すのは困難だったが...遊撃部隊の複数メンバーの連携で遂には成功し、そこで戦いは集結した。
情報通り、彼女は遠方の狸耳の国ポン皇国から誘拐されてきた巫女だった。漆黒のヘアバンドが外された彼女は穏やかな人物で...遊撃部隊メンバーに髭を引っ張られたりして遊ばれている神龍ダンテウスを、そばで微笑ましく眺めている。
13という国によっては不吉とされる数で表された「常夜将軍十三将」、および名のある将兵については様々だった。ある者は撃破、あるものは逃亡、遭遇することなく終わった将軍もいた。
特に、十三将の中で智将と呼ばれる類の数名は兵たちに指示を出しつつ、魔王の宮廷からいつの間にか姿を消していた者もいた。魔王軍不利の状況は、知恵ある者には既に悟られていたのかもしれない。
意外な強敵であったのは十三将の最後の2人、玉座の間の手前で待ち構えていた、魚の頭と月の頭を持った異形の2将であった。
異世界から召喚された怪異だという異形の将軍2名。すなわち“深淵の怪魚”アグラ・コナツスキーと“月影の疾走者”Mr.マディックである。深淵の怪魚は剛力でその異形の業物を振るい、そして智将でもあった“月影の疾走者”とは、姫様近衛騎士隊5名の中の白狐が氷の剣で交戦。
異世界の不思議な黒い衣装を着た月頭の将軍との激闘はしかし中断され...「魔王堕つ」の一報と共に召喚魔法が切れ、謎めいた最後の言葉と共に、怪異は元の世界へと帰っていった。
鮮烈な印象を残した“月影の疾走者”の名は吟遊詩人によって広められ、その後も諸王国で、翌日から仕事を始める人々の間で、長く語り継がれることになる。
入手した内部情報通り、夢幻宮では結局遭遇することのなかった常夜将軍もいた。人狼魔女エミーゼ、人狼闘士コナッツ、人狼騎士シオーネの3将である。“陰鬱な黒城の3人”とも称されるこの3名は、やはり別の場所にいたようだ。
その後、狼の耳以外はこの3将軍に非常によく似た3人、大道芸人の3人組をどこかの城下町で見たという噂が諸王国で広まるのだが...それはしばらく先の話である。
騎士エリアーニャの魔法の剣“夢炎剣”と激戦を繰り広げた魔王ミオタンの最期については、謎が多かった。
確かに討ち果たした手ごたえはあったのだが...そこで犬耳魔王の体は光に包まれ、玉座の間全体が光に満ち...エリアーニャを始めとする遊撃部隊一同が気付いた時には、姿が消えていた。
同時に伝令コウモリや下級の妖魔たちが一斉に「魔王堕つ」の報を持って飛び立ち、夢幻宮全体がわずかに振動を始め...その後は遊撃部隊の面々も脱出で手一杯となった。
ゆるやかにほころび始める魔宮の蜃気楼は、魔力のある者や霊感のある者たちに、様々な幻視を見せていた。遊撃部隊の各メンバーによって、幻の中に見た光景は微妙に違っていた。
曰く、常夜将軍である“魔王の右腕”アオイーヌが黒い翼で魔王の体を抱いていた。曰く、逆さに堕ちてゆくミオタンの姿は邪悪な魔王ではなく人間の少女のような姿をしていた。曰く、アオイーヌが漆黒の翼を広げ、魔王を抱いてどこかに飛び去った。曰く、黒い翼の持ち主は右腕アオイーヌではなく魔王側近“変幻の”アイコーンであったとも。
曰く、魔王を抱くアイコーンには翼がなかった。曰く、魔王の体を抱くアイコーンの姿は青白い月光の中にあり、夜明けではなかったと。それは、過去か未来かも分からない情景であったと....
いつの日かに来たる魔王復活の予兆かもしれないことは、騎士エリアーニャも考えた。だが当面は心配の種から外すことにした。
何せここは夢幻宮、夢と幻影と神秘が彩る魔宮。様々な不思議なことが起こってきた夜の宮殿なのだ。
この幾晩かで起こった不思議な出来事の幾らかは、本当に幻だったのかもしれない。宮殿で遭遇した魔物の数々、犬耳の魔王や常夜将軍たち、もしかしたらこの戦い自体、この物語さえも......。
だが、無事に救い出すことのできた王女は幻ではなかった。炎のように赤く外にはねた癖っ毛の髪、活発そうに見えて意外に大人しい、コン神聖王国の第一王女。
そばに控えている近衛騎士隊の5人組...5人の色とりどりの狐娘軍団とは、エリアーニャも面識があった。王国の記念式典で会っていたのだ。王女との感動の再会は済んでいるはずだが、涙もろいのか、何人かはまた王女の手を取り、何度目かの感動の再会を祝い合っている。
草原を照らす朝焼けの中、騎士エリアーニャは姫と近衛騎士隊のそばにゆっくりと歩みよると、咳払いをし、右手の手袋を外した。
「改めて申し上げましょう、カエデニア殿下」
纏うは赤、鎧は白銀、流れる髪は白金。名高き魔剣“夢炎剣”の剣先が描きし軌跡は炎、その剣技は夢幻の如し。
ウサ王国最後の円卓騎士、王国群の希望を担って立った兎の騎士は微笑んだ。
「我が名は夢炎剣のエリアーニャ。諸国より集まってくれた遊撃部隊の勇士たちと共に、ここに、姫をお迎えに参りました」
『夢幻宮のエリアーニャ』
― 完 ―
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weedsさんのユーザー企画「#これが好き」にも、お題は「ファンタジー」で参加します。
2025/9/7(日)の終幕間際にも多数の投稿を頂きました。今後も「#夢エリ」タグの使用、作品投稿はまったく自由ですし0時を過ぎた後も何作か上がっていますが、ぷち企画「#夢エリ」ゆるコラボ、本作を持っていったん区切りの終了宣言とします。
熱い盛り上がりをありがとうございました。9/9(火)にもお楽しみの終了記念作品を投稿します。 (*´∀`)=3
【追記】堂々の大団円で「#夢エリ」終了...!作品内で動きのあったキャラクター名のほとんど全員をテキストのどこかに出しています😉 2025年9月8日のデイリーランキング6位(呪文あり)、SDXLでも3位ありがとうございました~⚔️🐰
呪文
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イラストの呪文(プロンプト)
イラストの呪文(ネガティブプロンプト)
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