黒兎団
数百年もの間、他国と戦争することがないだけでなく、国内においても小さなケンカが月に数回ほど起きる程度であることから“大陸で最も平和な国”とされている。
その“無争の歴史”が始まったのは大陸暦11821年、他国との戦争が絶えない現状を憂いた女王ゴールドラピーヌ821世(写真5)が、とある武装組織を立ち上げたことから始まる。その名は「黒兎団(くろうさだん)」。
武力または魔力に秀で、高い身体能力を有する女性たちを集結させ、国境の防衛および国内の治安維持を任せたのである。
すると瞬く間に戦争は終結、まるで戦争などなかったかのように国内の混乱も消えてなくなってしまったのである。
このことは後に“黒兎の奇跡”として語り継がれるようになるのだが――平和が訪れるまでに何があったのか、彼女らはいったいどのような活躍をしたのか、という記録が一切見つからないのである。
著名な考古学者らによる調査に筆者も同行したが、発見された資料は当時の団員数名の情報のみであった。
(写真1)国境警備の小隊長。軍人気質で訓練が他の小隊より厳しいことで有名。常に鋭い目つきと険しい表情で、新人からは恐れられがちだが、信頼は厚い。暇さえあれば剣の手入れをしている。2人の妹と、実家で飼っている6匹の兎を溺愛しており、長期休暇には期間のほとんどを実家で過ごすという。
(写真2)団員育成を主に担当。凛々しいお姉さんというような雰囲気が人気。黒兎団に入る前は保育園の先生になりたいと思っていた。怒ることはせず優しく教え諭すことが多い彼女だが、胸部装甲の薄さを揶揄されると泣く子も黙る鬼と化す。現場を目撃したことのある団員は「彼女を怒らせていいのは、死にたいと思ったときだけ」と口をそろえる。
(写真3)国内の治安維持を主に担当。こんがり焼いた肌とメイクの腕が自慢。極東の島国の「ギャル」という文化に感銘を受けたそうで、一人称は「ウチ」。自分をかわいく見せることに余念がない。常に明るく元気に振る舞う彼女の前では、小さな喧嘩や悩みなどちっぽけなものだと思える。実は団員の中でも腕力はトップクラスで、巨大な斧を軽々と振るうことができる。
(写真4)後方支援を主に担当。魔力を自在に操るベテラン団員。料理や裁縫など家事が得意で、団員からは「お母さん」と呼ばれることもしばしば。温厚で落ち着いた性格であることも相まって、実年齢より何歳か上に見られることも多い。それ自体は悪いことではないが、「『おばさん』って呼ばれたときはさすがにムカっとして、氷漬けにしそうになっちゃいました~♡」とのこと。
……真相は謎のままだというのも納得である。
ジョン・ウサミ『バニリシアの歴史――兎の手を借りて――』序章より
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