麻袋 神楽演奏
演奏に用いられる楽器は琴、三味線、太鼓など伝統的な邦楽器に近似するが、奏でられる旋律は反復的で単調、かつ耳慣れぬ不協和音を多用する。現地の伝承によれば、これらの音は「人に聞かせるためのもの」ではなく、「袋の奥に棲むもの」「地の底に眠るもの」へと響かせるために奏でられるとされる。すなわち、神楽の受け手は人間ではなく、異界の存在にあると解釈できる。
また、袋を被る行為そのものが宗教的象徴を帯びている。調査者が「なぜ素顔を隠すのか」と村人に問うたところ、「袋を外すと声が違う方に届く」との返答を得た。この「違う方」とは何を指すのか、詳細は不明であるが、過去には祭祀中に袋を脱ごうとした奏者が急死したとの口伝も残されている。
結論として、「麻袋神楽」は表層的には音楽芸能の体裁をとりながらも、その本質は“祟りを回避するための遮断”と“異界との媒介”という二重の機能を担った呪的儀礼と見なしうる。その演奏を耳にした外来者の中には、理由なき恐怖に駆られたと証言する者も少なくない。したがって本風習は、単なる郷土芸能の域を超えた、異界信仰の顕著な痕跡と評価できるであろう。
呪文
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