Fate/Unchained Avalon ~聖杯戦争の終幕──それでも夢は消えない~
「あの聖杯も、この私も、ありえてはいけない夢だった。」
アルトリアは、自らの使命が終わった今、英霊としての現界を終え、過去へと帰るべきだと受け入れる。だが、運命は彼女に異なる結末を告げていた。
彼女の身体は、消えなかった────。
本来なら使命を果たした瞬間に霧散するはずの存在が、この世界に留まり続ける。
「私は……ここに留まる資格などない。この世界で在り続けることなど……」
自らを「ありえない存在」と断じるアルトリア。その言葉は、どこか儚げで、諦めの色を帯びていた。
しかし────その時。
彼女が震える声で、必死に告げる。
「セイバー…ダメ、かな……この世界に……このまま…」
涙に滲むその声は、消え入りそうなほど弱々しかった。それでも、すがるように差し出された手とその表情は、アルトリアの胸を刺す。
アルトリアの声は震えていた。
それでも、彼女は目の前の女性の姿を見つめる。
彼女が、静かに涙を滲ませながら、両手を胸の前で握りしめている。
戸惑い、躊躇いながらも、何かを訴えるように彼女を見つめていた。
黄金の夕焼けが、二人の姿を優しく包み込む。
その光は、あたかも二人だけの世界を守るかのように───。
「……セイバー……」
彼女が小さく呟く。
震える唇を噛みしめながら、そっと一歩、アルトリアへと近づく。
白いコートの裾が風に揺れ、まるで温かな雪が舞うかのようにふわりと広がった。
「……私は………やっぱり………貴女に、ここにいてほしい」
その言葉は、願いだった。
消えてしまいそうなほど儚く、それでいて、誰よりも強い想いが込められていた。
アルトリアは息を呑む。
彼女の胸の奥で、かつて騎士王としての誇りが誓った「運命への従順」が揺らぐのを感じた。
「セイバー」としての道理ではなく────
「アルトリア」としての選択を、求められているのだと。
「……」
彼女はそっと手を伸ばした。
小さな指先が、アルトリアの手の甲へと触れる。
温もりが、そこにあった。
その瞬間、アルトリアの翠の瞳が僅かに揺らぎ――
次の瞬間には、穏やかな決意の色が宿る。
「……私は……騎士としてではなく……貴女の傍にいる者として……貴女の運命を……見届けます」
静かに、しかし確かな意志を込めて、アルトリアは彼女を引き寄せる。
彼女の指先が少し震えながらも、アルトリアの瞳を溢れる涙で捉えていた。
それは、英霊としての使命ではなく────
ただひとりの女性として、この世界に「生きる」ことを選んだ証だった。
呪文
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