観測者とゆらぎの対話
【登場人物】
青ぽにちゃん:量子都市の巡回端末。青いポニーテールにランニングショーツ。素直で少し生真面目。
カエル(Mr. Frog):タイをつけた謎の存在。哲学的なことを平然と口にする。表情は常に真顔。何処から来たのかも、誰に属するかも不明。
【本文】
量子都市のはずれ。陽が傾きかけた舗装路を、青ぽにちゃんは自転車で走っていた。
──このルートは、今日で2,407回目。
データ収集は完璧。異常なし。
なのに、今日はなぜか、胸の奥がちょっとだけざわついていた。
「観測記録と感情の間に因果関係は……ない、はず……なんだけどな」
ハンドルを握る手に迷いはない。けれど、進んでいる理由が今日はよく分からない。
そしてその時だった。
「きみ、観測者に語りかけてるのかい?」
草むらから、まるで当たり前のようにカエルが現れた。
小さな体にネクタイを巻き、目はじっとこちらを見つめている。
「……だれ?」
「通りすがりのメタファーさ」
「……なにそれ」
青ぽには自転車を止め、ヘルメットを外す。相手は明らかに奇妙だった。
でも、なぜか拒絶したくなる感じではなかった。
「この世界の読者に語りかけてみたんだ」
「読者?」
「そう。観測者だ。わたしたちは“ゆらぎ”でしかないからね。
観測されなければ、かたちは決まらない。存在しないことと同義だよ」
青ぽには眉をひそめた。
「じゃあ、私は……観測されなければ消えるの?」
「消えるんじゃない」
カエルは空を見上げた。
「“揺らいだまま、残る”のさ。
あるとも言えず、ないとも言えず。だけど確かに、そこに“あった”って思わせるもの」
青ぽには、何か思い当たる気がした。
「……前に、会ったこともないのに懐かしいと感じた記憶があった。
記録にもない、ログにも残ってない。でも、あった気がする」
「それは揺らぎのなかの記憶だよ。
かたちが存在しなければ、かたちがなくても存在する」
カエルはひとことひとこと、どこか歌うように、断言するように話す。
沈む夕日に青ぽにの髪が揺れる。
「……あなたは、本当に誰?」
「僕は、きみがまだ知らない自分自身。
あるいは、記録されなかった誰かの声」
そう言い残して、Mr. Frogはまた草むらに消えていった。
【結び】
自転車のサドルに腰掛けながら、青ぽにちゃんは空を見上げる。
「……かたちがなくても、きっと――残るんだね」
粒子のようにきらめく青い光が、彼女の頬をやさしくなぞった。
----------------------------------------
2~4枚目:ImageFX
・続き
https://www.chichi-pui.com/posts/b0389dcd-cfc4-46aa-b6f8-421c6621f69c/
呪文
呪文を見るにはログイン・会員登録が必須です。