QのPDAは皆殺しのキラークイーン。爆発まで、あと3時間。
皆殺しのキラークイーンことQのPDAを渡された初音。
現在の生存者は5人で、制限時間は残り3時間。
後、3時間で自分以外の残りの生存者4人を殺さないと、初音の首につけられた首輪が爆発してしまう。
初音「ゲーム終了時刻までに、「自分以外の全てのプレイヤーの死亡」を達成しないと、首輪が爆発……。
相変わらず、酷い勝利条件ですね……。 運営はきっと、血の通わない鬼か悪魔……。
あんまりです! 軍人でも殺し屋でもない、ただのアイドルの初音が、こんな勝利条件を達成できるわけがありません……。
もう嫌……。 人を殺すのも、殺されるのも嫌……。
でも、首輪が爆発して死ぬのも嫌! 助けて……充~~~っ!」
初音は、この時思い出す。
昨日、自分を好いてくれているアイドルオタクの充を騙し討ちするかのように殺してしまったのは、当の自分自身だという事を。
そう、あの時の初音は充を信用する事ができずに、あの優しい充を、仲間だとは思う事ができずに、殺してしまったのだ。
そう。惑わされたのだ。
あの日、運営から初音のPDAに届いたメールに、初音は……。
デスゲーム運営からのメールの本文「あなたはまだ、今回のゲームで誰も殺してないようですが……。よろしいのですか? 皆殺しのキラークイーンの勝利条件は「ゲーム終了時刻までに自分以外の全てのプレイヤーの死亡」。
引き当ててしまった以上は、時間切れにはくれぐれもお気を付けを。
誰でも良いので、早く殺害される事をお勧めします。 早く誰かを殺さないと、時間切れであなたの首輪が爆破されちゃいますよ?
それでもよろしいのですか? あなたの首、吹っ飛んじゃいますよ? くすくすくす。
もしかして、誰を殺せばいいか、迷ってらっしゃる?
そう言えば、ほら? あなたの傍に、1人、ちょうど殺しやすい相手がいるじゃあ、ありませんか?
城咲充さまですよ。
ほら? 充さまって、あなたの前では隙だらけですよね?
女の色香で誘惑して、背中からザクリ。
女優のあなたの演技力なら、朝飯前でしょう。
これだけでほら、簡単♪ 勝利への第一歩じゃないですか♪」
それは、「早く言う事聞かないと、お前の首輪を爆発させるぞ」と、とても嫌らしい口調で脅迫する、初音に人殺しを催促する悪魔の手紙。
その本文には、運営の、邪悪で陰険で意地が悪い性格がにじみ出ていた。
私は、そんな下らない手紙の脅迫に負けたの?
人殺しゲームの運営に脅されて、私は……!?
充「僕は、君を守るためなら死んでも構わない。
君のQのPDA、皆殺しのキラークイーンの勝利条件の為に、この手を血に染める事だって、僕は……。」
どん底の初音に対して、優しい笑顔を向けてくれた彼は、もうこの世にはいない。
そう、私が殺した。
運営の脅迫に負けて
自分の身かわいさに。
私が殺した。
この世で一番、初音に対して暖かくて、優しくて、一緒にいるだけで気分がポカポカしてきて……。
もしかしたら、この人の恋人に、なれたかもしれないのに……。
私、充の事が大好きだったのに……。
それでも、私が殺したんだ!
「私は馬鹿だ」と自嘲する初音。
この狂ったデスゲームの中でたった1人、唯一信頼できる相手なのに、どうして……?
初音「どうして私は、充を……。
うっ、うっ……。うわああああああっ!」
そこに、初音の視界の中にふらふらと迷い込む、別のプレイヤーの姿が1つ。
修平だった。
藤田 修平「琴美を殺した黒河の奴を、やっと殺せた。
せっかく復讐を果たしたはずなのに、それなのに……。
どうしてだ?
全然、心は晴れやしない。くそっ……。」
初音「修平……?」
その時、初音のPDAに運営からメールが再び送られてくる。
メールのタイトルは「ようやく恋人の復讐を果たすも、全く満たされない。そんな男を騙す方法」
本文の一部を思わず音読してしまう初音。
初音「愛する者を失った孤独に付け込んで、自分に惚れさせれば良い……?」
運営「あなた、恋人を殺してまで生き延びたんでしょ?
首輪の爆発で死にたくないから。
だったら、最後までやり遂げましょうよ?
そうしないと充さま、殺され損ですよ?
真に充さまのご冥福をお祈りになるならば、あなたには生き残り、ゲームの勝利者になる義務があると、私は考えています。
だって、充さまの夢は『初音ちゃんが幸せになる事』でしょ~?
幸せになりましょうよ?
あなたの勝利、最後までサポートしますよ。 我々、運営一同が。
どうせ今更、汚れる前の綺麗なあなたには戻れません。
死にたくないんでしょ? たとえ汚れてでも、明日を生きましょうよ?
我々、運営スタッフと、共に。」
その時、初音の頭の中で、カチンコの音が鳴った気がした。
そうだ。私は女優なんだ。
演技力で、人を騙して……それが私の生き方なんだ。
私は、修平に声をかけた。
初音「えへへ。
私も、大事な人を失ったんです。
あなたと同じで、ひとりぼっちになってしまいました。
慰めあいませんか?
恋人を失って、心に傷を負う者同士で、温め合いませんか?」
後手にナイフを隠し持ちながら、修平に甘い誘惑の言葉をかける私。
修平「初音……? どうして服を脱いで?
まさか……!?
駄目だ! すまないが、俺は今、そんなつもりにはなれないんだ……!?」
初音「琴美への、裏切りになるから……ですか?
でも、考えてみてください。
いつまでも死者に魂を束縛され、誰とも恋できずに孤独に過ごす事を、あの琴美が望んでると思いますか?
恋人のあなたが幸せになる事、それこそが、消えていった琴美の本当の願いのはずです。
初音だって、初音のために死んだ充がそう考えてると信じているから……。
今、ここで修平と結ばれて、新しい命をこの世界に誕生させる事こそ、充に貰った命を使って、初音が今、やらなければいけない事だと、そう考えてるんですよ。」
何を、心にもないデマカセをペラペラ話してるんだろ、私?
しかも、論法が完全に運営の受け売り。
「あなたが幸せになる事が、死んで行った恋人にとっての幸せ」。
甘い言葉で、恋人を失った男の心の隙間に侵入して、だまし討ちにするための悪魔の言葉。
わかってる。
こんなの、修平を色仕掛けで騙して殺すための方便でしかない。
最悪な女。 自己嫌悪。 でも、しょうがないよね?
どうせ、自分の命可愛さに、この手を血に染めてしまった以上は……。
もう今更、「充の憧れだったころの初音」には、戻る事ができないんでしょ?
どこまでも堕ちよう。 汚れよう。
そして、最後まで生き延びよう。
うふふ。変ですよね。
デスゲームの運営に、これだけずっと私の尊厳を踏みにじられて、大切な物を壊されても私……。
それでも、死ぬのが怖くて、運営の言いなりで。
そして、また他の誰かを殺しちゃう。
あはははははは! 最低……。
本当に最低です! 最低の女です! 安藤初音って女は!
あはははは!
こんな初音に、騙された充は、本当にバカですよ。
人を見る目、全くないですね。 これだから非モテでお人よしの童貞メガネくんは扱いやすいんですよっ!
あははははは!
アイドルってやっぱり、ファンを騙してご飯を食べる。そんな仕事なんですよね?
別に、あなたの事好きでもないけど、とりあえず「大好き」「愛してる」とか、そんなカワイイフレーズでその気にさせて、男を騙して。
嘘ばかりの世界で生きていく。そんな生き物。
自嘲気味に、自分自身を穢すように批判して、責め立てる。
きっと、そうしないと罪悪感で私の心がバラバラになってしまうから。
私の世界は壊れてしまったんだ。
もう、何も残って無いんだ。
だったらもう……。
最低の女になってもいいじゃない?
悪魔に魂を売っても良いじゃない?
死にたくないから、死なないための選択だけを繰り返そう。
そうだ。私自身も、運営さんみたいに、悪魔になれば良いんだ。
悪魔のような自分勝手で利己主義者で、自分の幸せのためなら平気で人を殺す悪魔に……。
女優だったら、それくらいの演技ができて当たり前ですよね?
そうすれば、自分の心を傷つけずに、平気で人だって殺せますよね?
だったら、修平を色仕掛けで騙して!
そして殺して!
私は!
初音は……!
そう思った矢先の事だった。
女性の声「修平様! これは罠です! この女を信じてはいけません!」
ギュイイイン! チェーンソーの音が鳴り響く。
背中に、焼けるような熱を感じる。
そして、世界は鮮血の赤に染まった。
それは、初音にとってはデスゲームの終了をお知らせする鐘の音でもあった。
そうか。私、もう誰も殺さなくていいんだ……。
今まで何を必死になってたんだろう?
必死になって自ら手を汚しても、悪魔に魂を売り渡しても、死ぬときには死ぬんだね。
こんな事なら、罪を犯してしまう前に、さっさと死んでおけばよかった。
ねえ、充。
もし、初音たち2人が、また再び生まれ変われるなら、今度は間違えないように、しようね。
今度はちゃんと運営に負けずに、2人で協力して、最後までゲームを生き延びよう。
そして今度は初音、ちゃんと心から恋の告白をして。 嘘も偽りもなく、愛し合って……。
そしたらね……。
愛の結晶として、可愛い赤ちゃんが生まれるんです。
子供ができたら、2人で頑張って育てるんです。
子供はきっと、女の子。
充みたいな優しいお父さんに愛されて、すくすく育って、とても幸せそうで。
娘はいつも「お父さん大好き!」と無邪気な声で言うんです。
パパの充も、満更じゃない様子で、照れたような感じに、ポリポリと頭をかいて。
そんな時、娘に対して、私が軽く嫉妬するんです。
えへへ。大人げないですよね?
そしたら、そんな私の事を、充は「可愛いね」って、いつもの笑顔で頭を優しくなでてくれるんです。
そんな世界が、どこかにあったらいいなあ……。
あるわけないか。
死にゆく生命の中。
消えていく世界の中で、私は充と一緒に過ごす、幸せな時間をずっと空想し続けていた。
わかってる。それは、もう二度と絶対に叶わない夢だって。
※シーン2。 場面は変わり、モニタールーム。
「ぎゃはははは!」
軽薄そうな見た目の男が、椅子でくつろぎながら、缶コーヒー片手に下品にゲラゲラとお腹を抱えて笑っていた。
伊藤大祐だった。
伊藤大祐「あちゃ~。駄目だったか~。 初音ちゃん、弱すぎ~。
結構、良いオモチャだと思ったんだけどな。
リモコン操作で動く、最高に楽しい、殺人ラジコン♡」
彼は、ゲーム中盤から、初音の様子の一部始終を観察し続けていた。
安全なモニタールームから高みの見物。
そして、運営の名を騙っての、メール送信まで。
そう、彼は初音を裏から操作していた黒幕だったのだ。
伊藤大祐「くくく。 馬鹿だねえ、初音ちゃんは~。
『あなたはまだ、今回のゲームで誰も殺してないようですが……。よろしいのですか? 皆殺しのキラークイーンの勝利条件は「ゲーム終了時刻までに自分以外の全てのプレイヤーの死亡」。』
なぁ~んてね♪
まさか、俺がモニタールームの機能で『運営からのメール』と称して送信したナリスマシメールを、まさか本物の「運営からのメール」だと完全に思い込んじゃうなんてね~♪ 初音ちゃん、斜め上の方向に馬鹿丸出しだよね~♪
『真に充さまのご冥福をお祈りになるならば、あなたには生き残り、ゲームの勝利者になる義務があると、私は考えています。
だって、充さまの夢は『初音ちゃんが幸せになる事』でしょ~?』
ぎゃははははは! 我ながら名文を思いつくよね、俺って♡
便利な逃げ道を用意する事で、思考誘導する。 もはや詐欺の手口ですよ、これは♡
馬鹿な子ほど騙されるんだよね! こういうの。
初音ちゃ~ん、自分の恋人を色仕掛けで騙し討ちにして殺しておきながら、修平の奴に浮気して、その修平も色仕掛けで騙し討ちにして殺すって(笑)。
どんな気持ち?
ねえねえ、今、どんな気持ち?
あ、答えられないか~(笑)。 だって、初音ちゃん、もうこの世には、いないんだもん♪
死んじゃってるんだも~ん♪
充も馬鹿だね~。 こんなアホの子に憧れて犬死になんて♡ これだからアイドルオタクは人生の負け組って言われるんだよ! 主に俺みたいなリア充にさっ♪
ぎゃははは! げらげらげらげらっ!」
細谷はるな「なるほど。私に対しても、運営になりすましてメールを送ってきた間抜けな犯人はあんたって事ね。」
伊藤大祐「ん? げげっ! はるな! どこから侵入した!?」
細谷はるな「隠し通路があるのよ。」
伊藤大祐「マジで!?」
細谷はるな「それにしても、おかしいと思ってたのよね。
本物の運営とは、ちょっと違う文体で怪しいメールが来たから、疑ってたけど。
やっぱフナムシ野郎の仕業だったか。
『藤田修平を3時間以内に殺害しなければ、お前の首輪を爆破する』って、何よ?
私に偽のリピーターズコード送って、実の兄を殺すように仕向けるってどういう事よ?
悪趣味にも程があるわ! 大体、何であんたがリピーターズコード知ってるのよ?
私がリピーターである事すら、運営しか知らないはずなのに!」
伊藤大祐「モニタールーム調べたら、色々資料が見つかったんだよね。
ゲームに勝つために必要な情報が。
きっと、ゲームを盛り上げるために運営さんが用意したんでしょうぜ♪
わわわ……! 撃つな! ボウガンを人に向けちゃいけないって、学校で教わらなかったのか?
こうなったら……。えいっ! 煙幕はって脱出だ!」
ぼ~ん。
もくもくと、黒い煙が、モニタールームを充満する。
細谷はるな「しまった!
逃げられたか。」
はるなは悩む。
はるな「伊藤大祐は危険なプレイヤー。
このまま放置したら、お兄ちゃんの危険が危ない!
兄の命を守るためには、一体どうしたら良いの?」
呪文
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