美月お嬢様の華麗なる食卓 七食目
「お茶会……ですの? まあ、わたくしのようなレディをもてなす覚悟があるのなら、受けて差し上げますわ」
静寂の広がる和室。
畳の香りがほんのりと鼻をくすぐる。正座した部員たちの動作は静謐そのもので、美月は内心、少しだけ感心していた。
――この空気、悪くないわね。優雅な世界には品格が宿りますわね。
しかし、運ばれてきた茶菓子を見た瞬間、彼女の眉は再び寄った。
「……団子、ですの?」
三つ並んだ白玉が、串に刺さり、琥珀色の蜜をまとって艶めいている。
「これは“みたらし団子”と申します」
部長が微笑むと、美月は小さくため息をついた。
「団子とは本来、月見の供え物。串に刺して食すなど、まるで――野趣の極みですわ」
そう言いながらも、香ばしい醤油の焦げる匂いが、心の奥をくすぐる。
(……何、この香り。品がないようでいて、どこか懐かしい……?)
促されるまま、抹茶をひと口。
続いて、みたらし団子を口に運んだ瞬間――世界が変わった。
柔らかな餅が歯を受け止め、とろりと流れ出す甘辛の蜜。
その味は、まるで天地が抱き合う瞬間のようだった。
「……っ!? この琥珀の蜜……まるで天と地の契約のよう……!」
思わず声が漏れた。
「抹茶の苦みと蜜の甘みが交わり、まるで緑と金が舞う舞踏会……これが和の調和、ですのね……!」
茶道部員たちはぽかんと彼女を見つめ、静まり返る室内に、美月の感嘆だけが響いた。
すぐに彼女は我に返り、顔をそむけた。
「……い、いえ。ほんの一瞬、舌が偶然感じ取っただけですわ。誤解なさらないでくださいませ」
けれど、その手元にはすでに串の影も形もない。
茶碗の脇に残る、ほんのわずかな蜜の跡が、彼女の“偶然”を裏切っていた。
帰り際、ふと振り向いた美月お嬢様は、微笑を浮かべた。
「……ふふ。少しだけ、この文化、気に入りましたわ」
その声音は、秋の日差しのように柔らかく、甘い香ばしさを残して、静かに和室を満たしたのだった。
呪文
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