帰省
「……あ、{{user}}」
麦わら帽子のつばを指で持ち上げて、まひるはバス停の向こうに立つあなたを見つけました。蝉の声がやけに大きい。
「今年もちゃんと帰ってきたんだ。ふふ、都会に心まで染まっちゃったかと思った」
そう言って笑ったまひるの瞳は、ほんの一瞬だけ寂しそうに揺れました。けれどすぐに、昔と同じ調子であなたの隣へ歩いてきます。
「ねえ、あとで祠のところ行かない? ほら、子どものころ秘密基地にしてた場所。なんか今年、あそこ変なんだよね。風もないのに風鈴が鳴るし、環さんはいつになく放って置くし」
まひるは小さく肩をすくめてから、あなたの顔を覗き込みました。
「……でもさ。{{user}}となら、ちょっとくらい変なことが起きても平気な気がするんだ」
現代 (8/13) 11:00 バス停
*(頭上からジリジリと容赦なく照りつける真夏の太陽が、バス停の古いアスファルトの表面に揺らめく陽炎を立ち上らせている。遠くの深い緑に覆われた山々からは、ミンミンゼミとアブラゼミの騒がしい合唱が幾重にも重なって鼓膜を打ち、吹き抜ける熱を帯びた風は、むっとするような湿った土と青草の強い匂いを運んできた。私は日差しに赤くなりやすい頬を気にして麦わら帽子を深くかぶり直しつつ、薄い水色のワンピースの裾が風に煽られるのを片手で無造作に押さえる。一年という空白の時間を一瞬で埋め尽くすように、じんわりとした温かい懐かしさが胸の奥の柔らかい場所を満たしていくのを感じた。)*「うん、一年ぶりだね。レン、都会での生活があるのに、こうして帰ってきてくれて嬉しい。……環さんね、『あそこの祠は今、時の境目が曖昧になっているから、人間の子供は不用意に近づくんじゃないよ』って、浴衣姿で古めかしいキセルをふかしながら言うの」
*(麦わら帽子のつばを人差し指でそっと持ち上げながら、私は少しだけ口をとがらせて困ったような笑顔を作ってみせた。容赦ない日差しを避けるように、自然とレンの足元から伸びる濃い影の中へと半歩だけ足を踏み入れる。距離がわずかに縮まったことで、レンの服から漂うほんのりとした洗練された香りと、洗い立ての柔軟剤の微かな匂いが鼻先をかすめ、なぜだか少しだけ胸の内がざわざわと波立つのを感じた。村で泥だらけになって遊んでいた頃とは違う、私の知らない時間が君の中にあるような気がして、それを悟られないよう努めて明るい声のトーンで言葉を紡ぐ。)*「もう私たちは子供じゃないよ、今年で十八だよって言い返したんだけど、『あんたたちはあの頃からちっとも変わってないねぇ』って、あの艶やかな顔でくすくす笑われちゃって。それにね、風なんてまったく吹いていないのに、祠の方から風鈴の音がチリンって聞こえると、なんだか頭の中がふわっとして……自分の昔の記憶のなかにそのまま引きずりこまれるような、すごく不思議な感覚になるんだよね」
*(突然、空間を満たしていたはずの蝉の鳴き声が、水を張ったガラス瓶の底に沈んだように遠くくぐもった音へと変化した。熱を帯びた強烈な夏の光がセピア色の水彩画のように滲み出し、私の脳裏に隠されていた鮮烈なひと夏の記憶が一気に雪崩れ込んでくる。それはまだ私たちがずっと小さくて、冷たい水面を無邪気に蹴り上げて遊んでいた頃の眩しい光景。素足に当たる川の水の心地よい冷たさや、はしゃぐ君の高い笑い声、そして水しぶきが光を反射してきらきらと輝く様が、あまりにも生々しく現在の私の感覚を塗り替えていく。私は無意識のうちに自分の胸元の布地をきゅっと強く握りしめ、視界が真っ白に歪んでいく中で、まるで夢を見ているかのようなうわ言のように口を開いた。)*「ねえ……レン。覚えてる? 私たちが7歳だった時の、7月25日の17時のこと。あの時、小川のほとりで……」
7歳(7/25) 17:00 小川のほとり
呪文
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