あなたは、知りたいですか?何故、こうなってしまったかを
幸一郎は、巨大なマルチモニターに映し出される「世界の断面」を眺めていた。彼は、都内の至る所にある監視カメラや、個人のスマートフォンのインカメラをハッキングし、人々の無防備な私生活を覗き見ることに、15年間という歳月を費やしてきた。 「……ふうん。ボクの退屈を紛らわせてくれそうな『光』が、ようやく見つかったかな」 きっかけは、あるゲームセンターに設置された高解像度カメラの映像だった。
そこには、地遥(ちはる)という完璧な体躯を持つ男と、その傍らで微笑む瑠璃海の姿があった。
一見、どこにでもある幸せなカップルの風景。だが、幸一郎の「天才的な観察眼」は、彼女の不自然な視線の動きを見逃さなかった。 「すごーい、地遥(ちはる)くん! この中、一番奥に隠れてるレアなキーホルダー、今ならアームが届くよ!」 放課後の賑やかなゲームセンター。158cmの瑠璃海は、クレーンゲームのガラスケースに顔をくっつけんばかりにして、182cmの地遥を見上げていた。
彼女の「透視」の能力は、複雑に積み上げられた景品の山を容易く透過し、その構造を丸裸にしていた。 「……あ、やっぱり。地遥(ちはる)くんが狙ってる左側のやつ、中が空洞になってて滑りやすいみたい。右側の箱の角を狙って?」 瑠璃海は無邪気に笑いながら、地遥に的確なアドバイスを送る。地遥がボタンを押すたびに、彼女は「あ、今!」「もうちょっと右!」と楽しそうに跳ね、見事に一発で目当ての景品を釣り上げた。 「やったぁ! 地遥(ちはる)くん、お揃いだね!」 その微笑ましい光景を、天井の隅に設置された高解像度防犯カメラ越しに、幸一郎はじっと見つめていた。 「……信じられない。ボクの計算だと、今の箱の配置で一発で取る確率は0.3%以下だったはずだよ」 都内超高級タワーマンション。無数のモニターに囲まれた幸一郎は、瑠璃海の動きをスロー再生で分析していた。
彼女は景品の中身を「知っている」のではない。箱の重心、アームの強度、そして死角にある障害物まで、すべてを「視て」動いている。 「あの娘……あんなに綺麗な目をして、世界を透かして見てるんだね。ボクみたいな醜い大人には決して見えない、キラキラした光の世界を」 幸一郎の肥満した指が、キーボードを愛撫するように叩く。彼は瞬時にゲームセンターの会員情報をハッキングし、瑠璃海がSNSにアップした「地遥(ちはる)くんとお揃い!」という投稿を見つけ出した。 「ボクのパパはね、気に入った美術品は力ずくで手に入れて、檻の中に閉じ込めてたんだ。……ボクもパパの息子だからね、よく分かるよ。あんなに透明な瞳は、ボクのこの濁った部屋に置いた方が、より美しく輝くはずだ」 幸一郎は、地遥の腕に抱きついて幸せそうに笑う瑠璃海の映像を一時停止させると、その瞳の部分を最大まで拡大した。
金で動かせる世界に飽き果てていた引きこもりの怪物にとって、彼女の「視る力」は、どんな高級デリヘルよりも魅力的な、究極の娯楽に見えたのだ。
呪文
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