ロスジェネ 5話
「ようこそ、“ルーパー”の世界へ」
その言葉で、蓮の中にあった全ての疑念が確信に変わった。
自分だけじゃない。小宮も、藤木も――この“世界”を知っている。
3人は、休憩室の一角で顔を合わせた。
外では花冷えの風が、都会のビル群を吹き抜けている。
「ループって……じゃあ、俺たちは、何のために……?」
蓮の問いに、藤木は首を振った。
「正直、まだ全部は分からない。俺は3回、戻った。でも、“なにをしたら正解なのか”は見えてこない」
「じゃあ……何かを変えた?」
小宮が訊くと、藤木は言葉を詰まらせた。
「……変えようとした。でも、誰かを助けるたびに、別の誰かが傷ついた。最悪だったのは、救ったはずの同僚が、別の部署でパワハラを受けて……結局、自殺した」
沈黙が流れた。
タイムリープ――それは、万能ではない。
「何かを変えるたびに、どこかで“代償”が生まれる。
それでも、お前はやるのか?」
その問いは、蓮に向けられていた。
目を逸らせなかった。
⸻
その夜。
蓮は一人、スマホの『Re:GEN』を見つめていた。
次回リープ可能:4月3日 2:00~
“3日後に戻る”。
つまり、もし明日も何かあったとしても、それは“後から変えられる”。
だが――
(何を変えるんだ?)
頭に浮かんだのは、小宮のことだった。
あのノートPCを落としかけた日の、わずかな震え。
あの怯えた目。
彼女は何かを“隠している”。
蓮は翌朝、小宮を待って声をかけた。
「……小宮さん。何か悩んでること、ない?」
彼女は一瞬、動きを止めた。そして、小さく笑って言った。
「……気づいたんだ。やっぱり、君って、昨日とは違う」
蓮は息を呑んだ。
「私ね……明日、配属先で直属の上司と1対1の面談があるの。
あの人、“触ってくる”の。書類の提出に行くだけでも、いつも背中とか、腰とか――」
(……まさか)
「一度、録音しようと思った。でも、証拠も取れなかったし……怖くなって、何も言えなかった」
蓮の手が、スマホを握る力を強めた。
「俺……変えるよ。今度こそ」
⸻
そしてその夜。
日付が変わり、午前2時。
『Re:GEN』の通知が表示された。
タイムリープ可能です。
実行しますか?(Y/N)
蓮は、スマホ画面に触れた。
画面が暗転し、銀の鍵が浮かび上がる。
“使う覚悟”を問うように、ゆっくりと回転していた。
(誰かが傷つくかもしれない。でも……何もしないでいる方が、もっと怖い)
「……Y」
画面に触れた瞬間、視界が歪み、時計の針が逆回転を始めた――
⸻
(第5話 完)
次回 → 第6話「証拠と代償」
呪文
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