本日のランチ
『食彩探訪』11月号特集
「11月23日 甘辛い湯気が呼び戻す、懐かしい昼ごはん──牛すき焼き風煮定食」
文・撮影:田嶋 達郎(グルメ記者)
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昼下がり、冬の匂いが少し混じり始めた風を避けるように暖簾をくぐると、
店内に漂う甘辛い香りがふわりと肩を抱いてくれた。
今日の日替わりは、あの懐かしい温もりがよみがえる一皿──牛すき焼き風煮定食。
主皿では、牛肉と玉ねぎ、そして厚めに切った豆腐が、
黄金色の煮汁の中にゆったりと身を沈めている。
割り下の甘みと醤油の香ばしさがほどよく絡み、
煮汁がふつふつと立てる熱気が、テーブル越しにさえ伝わってくる。
肉は驚くほどやわらかく、噛むほどに広がる旨みはまさに“お昼のご褒美”。
豆腐は煮汁を深く吸い込み、熱々で頬張れば思わず目を細めてしまう。
しらたきのつるりとした食感もアクセントになり、
口の中で甘辛・やわらか・軽やかが心地よく巡っていく。
サイドのほうれん草ナムルは、香りと青みが爽やかで、
もやしとにんじんのナムルは軽いゴマ油がきいた、すき焼きの甘みに寄り添う名脇役。
さらにきゅうりの浅漬けの小気味よい歯ざわりが、
煮汁の余韻をすっと整えてくれる。
そして、湯気の立つ味噌汁は豆腐とわかめの組み合わせ。
すき焼きの甘みを優しく受け止める、いつもの安心の味だ。
白いごはんと甘辛の煮汁の相性は言うまでもなく、
おかわりの文字が頭をかすめたのは、ここだけの話にしておこう。
冬の始まりにぴったりな、
“肩の力が抜けるあたたかさ”が詰まった定食だった。
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◆次回予告
11月24日:旬の香りが立つ──「鮭のホイル焼きセット」を予定。
バターの香りときのこの風味が、昼のひとときを彩ります。
──今日も、いい湯気だった。
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