花嫁は赤上小織その3
私、赤上小鈴のお兄ちゃんである赤上小織が行方不明になってから4日が経った。
4日前、お兄ちゃんは夕方に本屋に行くと言って家を出て、そのまま帰ってこなかった。
今までそんなことは一度もなかった。
そもそも、オタクで陰キャで人見知りなお兄ちゃんが夜通し遊んで朝帰りするなんて考えにくい。
それに、こう言っては何だけどお兄ちゃんには友達が少ない。
いないわけじゃ無いんだけど、友達と呼べるのは幼馴染で剣道のことしか頭にない剣道オタクとも言えるお兄ちゃんの高校の剣道部の主将でもある「剣崎道一」先輩。もう一人はお兄ちゃんと同じアニメオタクで中学の頃から意気投合して付き合いのある「太田栗夫」先輩。この二人だけだ。
そのうえ、剣崎先輩は夜遊びするどころか、むしろ夜遊びしている同級生を見つけたら注意するような気真面目な人だし、太田先輩は私のクラスメートの腐女子ちゃんこと「太田芙示子」ちゃんのお兄さんだ。一緒に遊びに出かけている訳では無いことは電話で確認済みだった。
それでもパパとママが「お兄ちゃんも高校生だからそういう事もあるかもしれない」と言っていたので、私は深く追及はしなかった。
でも……私、実は知ってたんだ。
パパとママが私に心配させないようにいつも通りにふるまっていただけで、本当はすごくお兄ちゃんの事を心配していたこと。それにお爺ちゃんも「ちょっと町内会の集まりがあるから今日は帰らない」なんて言って出て行ったけど、本当は夜通しお兄ちゃんを探し回っていたことを……。
そして次の日になってもお兄ちゃんは帰ってこなかった。
パパとママは私に「心配ないから」と言って、学校に行かせたけど……私はお兄ちゃんが心配で授業なんて全く頭に入ってこなかった。
そして学校が終わり家に帰ってもお兄ちゃんは帰っていなかった。
お爺ちゃんは帰って来ていたけど、ひどく疲れた様子だった。でも……これは体力的なものじゃなくて恐らく精神的な疲れなんだと思う。そしてそれはパパとママも同じだった。
そしてその日のうちにママが警察にお兄ちゃんの捜索願を出した。
もちろんパパもお爺ちゃんもそれとは別に探し回っていた。
私は、従姉である黒間久摩耶お姉ちゃんに力を借りようと思ったけど、タイミング悪くお姉ちゃんは高校の特進クラスの勉強強化合宿に参加していたため不在だったし、伯父さんも伯母さんも仕事が忙しく数日家に帰れない様子だった。
だから……私は自分でお兄ちゃんを探すことにした。
お兄ちゃんが何か事件や事故に巻き込まれたなら、この私が見つけて見せる!
この……女子中学生探偵と呼ばれた赤上小鈴が!
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お兄ちゃんの足取りを調べる中で、最近不審な車が目撃されていたことが分かった。
何でも、路上駐車したまま30分とか1時間ずっとその場所から動かなかったという。
さらに、動いてもすぐに止まったりして動きも不自然だったらしい。
そして、私が捜査をしている中、ついに目撃情報を手に入れた。
4日前に、駅前の通りで赤い髪の女の子を無理やり車に連れ込んだ不審者が目撃されていたらしい。
一応目撃者の人は、怪しいと思い知り合いの警察官に話はしておいたとのこと。
そして、聞いてみるとその時に使われていた車が不審な車両として目撃されていた車と酷似していることが分かった。
だから私は、二つの車が同一の物と仮定して捜査を進めた。
そして推理の結果、不審車両が向かった先は………今はもう廃校になった学校である可能性が高いと判断したのだった。
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大切な荷物を入れたリュックサックを背負い直し、私はその廃校に足を踏み入れた。
お兄ちゃんを攫ったらしい不審者が潜んでいる可能性が高い廃校。私は気配を殺しながら窓から教室の中を覗き込んだ。
「んん!……むぅ!んんん!」
「ハァハァ……カワイイ、カワイイよ小織!やっぱり君は俺のお嫁さんだねぇ!愛してるよ!」
私は眼を見張った。
教室の中にお兄ちゃんがいた。けど………お兄ちゃんは女性物のピンクのブラジャーとショーツを身に付けさせられ、そのうえまるで花嫁さんの様なヴェールを被らされていた。そして、身体中を縄で厳重に縛られており、口にはきつそうな猿轡をされていた。
まるで………まるで女の子の様な格好をさせられたお兄ちゃん。まるで女の子の様に誘拐されたお兄ちゃん。まるで女の子の様にレイプされそうになっているお兄ちゃん。
泣きながら必死に抵抗しようとしているお兄ちゃんを見て……………私の中で何かがキレた。
私は走って校舎の入口に回りそこから校内に侵入した。そして、お兄ちゃんと誘拐犯の居る教室へ一目散に向かう。
教室の扉は壊れており、特に扉を開ける必要はない。そして私は置きっぱなしになっていた椅子を一脚掴んで振り上げた。そしてそのまま誘拐犯の背後に向かう。
誘拐犯はお兄ちゃんを背後から抱きしめていた。それどころか、お兄ちゃんの胸を鷲掴みにして揉みしだいている。それにお兄ちゃんの首筋にキスまでしていた。
許せない………許さない!私の大切なお兄ちゃんをよくも穢したなぁ!
「う、うう……うわああああああぁぁぁぁぁ!」
気が付いたら私は叫びながら誘拐犯に殴りかかっていた。椅子を振り上げ思いっきり誘拐犯に振り下ろす。
ガッ!ガッ!
「うわっ!な、なんだ!?」
誘拐犯がなんか言っているが私の耳には入ってこない。それどころか私は振り上げた椅子を何度も誘拐犯に叩きつけていた。
そして何度も叩きつけたころ………手の汗と腕の疲労で、椅子を手から滑らせて落としてしまった。
「……ハァッハァッハァ……」
荒い呼吸のまま肩で息をする私。そして次の瞬間……。
「てめえ!何しやがんだこのクソガキ!」
バシィンッ!
「きゃあぁっ!」
誘拐犯に突如思いっきり引っ叩かれて私は倒れ込んでしまった。
そ、そんな………あれだけ叩いたのに……。
誘拐犯をよく見ると、ほとんどダメージが無かったのが分かる。どうやらほとんど腕で防がれてしまったようだ。
「くっそ、いってぇな!……てか、何だテメエは!」
誘拐犯が怒鳴ってくる。
………怖い。すごく怖い……でも……私がここで尻込みする訳にはいかない!
「お兄ちゃんを……お兄ちゃんを返せ!この変態!」
「はあ?お兄ちゃん?」
誘拐犯はそう言って私とお兄ちゃんを見比べた。そしてニヤリと笑う。
「ああ、そっか。そう言えば小織には妹がいたな。お前がその妹か」
「んんん!むうう!」
誘拐犯の言葉にお兄ちゃんが呻き声を上げながら首を横に振っている。多分、私を無関係な人間という事にしてこの場から逃がそうとしてくれているんだ。嬉しかったけど……けどゴメンねお兄ちゃん。
「そうよ!私が赤上小織の妹、赤上小鈴よ!」
「そっかそっか!それじゃ妹ちゃん……」
「なに!早くお兄ちゃんを解放して……」
「とりあえず死んでくれ」
「え?」
誘拐犯の言葉の意味が一瞬理解できなかった。
「いやなに、小織がさ……まだまだ俺に反抗的なんだよ。だから……まず妹のお前を殺して……言うことを聞かないと次はお前がこうなるってことを教えてやらないと………と思ってさ」
そう言うと誘拐犯は私を思いっきり突き飛ばした。
思わず倒れ込んでしまう。そのうえ、リュックサックが落ちて中にしまってあった大切な荷物が外に出てしまった。
そして誘拐犯は私に馬乗りになる。
「く……この……」
「じゃあ、とりあえず死ねよ」
「や、やめ……………ぐ…」
誘拐犯が私の首を絞めてきた。一気に息が苦しくなる。十数秒で既に頭がクラクラしてきた。
うそ………私、このまま殺されちゃうの……?
恐い……でも…それならせめて……お兄ちゃんだけでも……!
「お……ちゃ…に‥…て…」
お兄ちゃん逃げて……そう言いたかったのだが、首を絞められているのでまともに声を出せなかった。
それでも、お兄ちゃんの方を見て言ったので口パクで伝わったかもしれない。
あ、だめ……意識が朦朧としてきた……。
もうだめかも……。
そう思っていた時……何かがキレる、ブチッという音がした気がした。
そして……。
ドン!
「うお!?」
「くはぁ!」
何かがぶつかる音、そして誘拐犯の悲鳴。次の瞬間私の首を絞めていた手が離れ、私は呼吸を取り戻した。
何度も何度も息を吸う。深呼吸もする。
そして何とか起き上がった時、私の前に立っていたのは………お兄ちゃんだった。
ゴキ、ゴキィ!
何か関節の外れるような音がして、鬼ちゃんの左肩がダランと落ちる。しかしそのおかげで縄が緩くなり、そのままお兄ちゃんは自分を拘束している縄を自力で解いていた。さらに足を縛る縄も解くと、最後に猿轡を外し、口の中にあるガーゼを足元へペッと吐き捨てた。
「お、お兄ちゃん……」
私が声をかけると、お兄ちゃんは振り返ってそっと微笑んでくれた。そして、足元に転がっていた私が持ってきた大切な荷物………ベルトを装着した。
「さ、小織!何をしているんだ!お前は俺のお嫁さん……」
「うるさい!だまれ!………俺は……俺はお前のお嫁さんなんかじゃない!俺は………小鈴のお兄ちゃんだ!」
そう叫んでお兄ちゃんはバックルのスイッチを入れた。
『STRONG!IMPACT!SONIC!CYBER!……ON!……S・I・S・C…ON!2nd…シスコンシステム2nd起動!』
「変態!」
『セカンドステージ!モードセレクト!S・MorドM』
「セレクト!ドⅯ!」
『ドⅯ、OK!ドⅯ、OK!ド級に~燃え~る!』
その瞬間お兄ちゃんは仮面ブラザーレッドヘアー2ndステージドⅯに変身していた。
「はあ!?お、おい小織、それは一体……」
「気やすく呼ぶなクソ野郎!俺の妹を傷つける奴は……地獄の底に叩き落とす!」
そしてお兄ちゃっは更にバックルのスイッチを入れた。
「ドⅯモードリミットブレイク!オーバーヒート!」
その瞬間仮面ブラザーは全身から灼熱の炎を放出していた。
・
・
「修行が足りんのだこの未熟者」
「ゴメン、爺ちゃん」
お爺ちゃんの言葉にお兄ちゃんは項垂れて素直に謝っていた。
あの後、仮面ブラザーに変身したお兄ちゃんは暴走し、誘拐犯を殺そうとしていた。けどそこにお爺ちゃんが割って入り、お兄ちゃんは人殺しにならずに済んだ。
誘拐犯はその後、お爺ちゃんに適度に叩きのめされた後、警察に逮捕された。
お兄ちゃんは暴走状態のときにお爺ちゃんの掌底をお腹にくらったので、実は気絶していて、先程目を覚ましたばかり。
私は……お爺ちゃんが背負ってくれていた。これじゃどっちが助けに来たのか分からないなぁ。
けど、これでお兄ちゃんも助けられたし一件落着だよね。
「何が一件落着だ。お前危うく殺されるところだったんだぞ!」
「そうじゃ!小鈴には危ないと思ったから小織が誘拐されたことは秘密にしておいたというのに……」
お爺ちゃんの言葉にポカンとする私。
「え?おじいちゃん達、お兄ちゃんが誘拐されたって知ってたの?」
「不審な車の事は気付いておったからなぁ。じゃが、まさかあんなに速く犯行に及ぶとは思っておらんかったから、不覚にも小織を拉致されてしまった。……小織もすまんな、怖い思いをさせた」
お爺ちゃんはそう言ってお兄ちゃんの頭を撫でていた。
「……まあ、怖かったのは事実だけど……けど俺、きっと爺ちゃんか父さんが来てくれるって信じてたからさ!」
そう言って笑ったお兄ちゃん。
家に帰ったらパパとママが優しく出迎えてくれた。
エピソード「花嫁は赤上小織」 完
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