玉響チトセの不言実行
玉響チトセはヒノイ自然公園へと繰り出した。都市部の中心にあるこの公園は今紅葉が見ごろである。
チトセが高台へ昇り、眺めているのは紅葉、だけではない。それには目もくれず虫取りに勤しむ役人達だった。
作業着を身に着け黙々と虫を捕獲している中で、目的のものが掛かるとひと際歓声があがる。
「仕事なのか遊んでいるのか傍目で分かりませんが、ともかく順調そうですわね」
チトセの先の情報漏洩対策のひとつとして送っていた、トンボ型偵察機のせん滅作戦の真っ最中であった。
本物に酷似したその小型偵察機は、フェンテスの仕掛けた諜報兵器である。
高度な飛翔能力と潜伏能力、擬態性を有するこの偵察機は映像と音声の記録・送信のみならず、群体で行動時はホログラム映像をその場で流すことができた。
遡行前の世界線ではヒノイの閣僚たちがどれだけ醜聞を街中でゲリラ放映されたことか。
ちなみにチトセはその映像を腹を抱えて笑っていた。玉響チトセは性格が悪かった。
何にしてもこの防諜作戦は中々に泥臭く、我が身の危うさを殊更抱いた役人が自ら陣頭指揮を執り汗水かいている様は見ものであった。
(良い気味だこと。わたくしをこき使ってきた報いを存分に受けるのですわ!)
かつての世界線でチトセに泣きついておきながら、今世界線では何も知らずのほほんとしていた憎き親戚など、スーツ姿で網を振り回す羽目になっているので溜飲が下がる下がる。
玉響チトセは性格が悪かった。
・・・
休憩時間になると、スーツ姿で網を振っていた親戚がチトセの方に寄ってきた。
「ちっ、気づかれましたわ」
「やあ、チトセちゃん!この間は…」
「ふんっ!」
チトセは親し気に近づいてきた親戚の脛を、狙いすまして蹴っ飛ばす。学園指定の固いローファーで。
「痛ーーーッ!!?」
「わたくし、もうレディですの。気安くスキンシップなど失礼だと思いませんこと?」
「レディは出会い頭に他人の脛を蹴らないと思うけどなぁ……」
口の減らない親戚の物言いなど無視し、チトセは周りを見渡す。
(他の国も来てますわね…)
上空の見慣れない鳥の群れはセントレイク、模様の独特な栗鼠はシラクレナのものだろう。いくつかの時間遡行の中で、副次的に知ったものだ。
いずれもヒノイの情報収集をしつつ、あわよくばこちら陣営が捕獲しているフェンテスの兵器を横取りする算段だろう。
フェンテスの技術力の塊とも言えるあの諜報兵器を手中に収めたいのはどの国も一緒と言えた。
「ノリトキ、お仕事はまだまだ続くようですわね、大変良い気m…大変ですわね」
「今良い気味って言おうとしなかった…? あと一応僕の方が年上なんだけど…」
「年下に頼りまくる親戚のことなど知りませんわ。よくよく励みなさいな」
それでは御機嫌よう!と、チトセはご満悦で公園を後にしたのだった。
…蹴ったつま先が痛くて執事におんぶしてもらいながら。
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