いけません!お姉様っ!
私は思わず悲鳴のような大声をあげてしまった。
何故か?
それは目の前でお姉様が3メートルはあろうか
という高さの柵の天辺から飛び降りたからだ。
それはもう軽やかに。
ひょいっと。
「なぁに?
大きな声出して。
はしたなくてよ?」
何事も無かったかの様な口調だが
それ…お姉様が言いますか…?
そもそもですね、綺麗に生え揃った牧草地を見て
『裸足で歩いたら気持ち良さそうねぇ…。』とか
『放牧の時間じゃなければ大丈夫かしら?』とか
仕舞いには『ちょっと入ってみましょう』なんて
仰る時点で淑女としてはどうかと思うのですけど。
まぁ…私が『芝生とは違うんですかね?』なんて
言ってしまった所為で”お姉様に興味を持たせて
しまった”という責任の一端があるのも確かなの
だけれど…
…でも!
それでも!
『なら確かめてみましょう』って、いきなり
靴とソックスを脱ぎ捨てて!柵を登るのに
邪魔だからとスカートすらも脱ぎ捨てて!
目にも止まらぬ速さでこの高さの柵をですよ?
越えて行くなんて思わないじゃないですか!?
…あぁ…いえ、嘘ですね。
本当は思わなかった訳じゃないんです…
寧ろ、お姉様ならやるんじゃないか、と
頭の何処かでは考えていた気がします。
「ねぇ、何やってるの?貴女も
さっさと入って来なさいな。
ほらほら、早く早く。」
呆気に取られていた私の意識がお姉様の
言葉で“こちら側”へと戻ってくる。
所謂“我に返る”という状態ですね。
「…はい?
え…?あの、お姉様…?
今、なんと仰いました?
入って来い、と…………
聞こえた気がしますけど」
「間違いなくそう言ったわね。」
……いやいやいやいや!
何を言っているんだこの人は!?
私に?…平々凡々な身体能力しか
持ち合わせていない、この私に?!
この柵を乗り越えて来いと仰る?!
私は貴女の様な超高校級の運動能力
など備わってはいないのですよ?!
「貴女だって芝との違いを気にしてた
じゃない。そこはやっぱり己自身の
身体で確認してみないとね!ほら!」
そう言って手招きをするお姉様。
勿論ここで断っても良いのだが…後がなぁ
暫くの間は拗ねちゃって大変な思いをする
事になるであろう事は想像に難くない。
かと言ってここで“うだうだ”としていたら
お姉様に担がれて柵を超える…そんな事態
にもなりかねない。
…やりそうだなぁ…
はぁ…と、ひとつ溜息を吐いて、私は靴と
靴下を脱ぎ、丁寧に揃えてお姉様の靴の横
に並べた。
先程私は“お姉様が靴を脱ぎ捨てた”みたい
に言ったけれど、この方…こういう行儀や
礼儀作法みたいなものはキッチリとしてる
ので、いつのまにか揃えられていたりする
のである。
余談はさておき
私が意を決して柵に足をかけたとき
お姉様が妙な事を言った。
「え?待って、柵、登るの?驚いた
貴女けっこうチャレンジャーね?」
その言葉に驚いてお姉様を見やれば、
本当に驚いた顔をしていらっしゃるのだ。
本日2回目の“何を言ってるんだこの人は”
である。だって、自分でこっちに来いと
手招きをしたのだから其方に行くのは私の
はずで、其方に行くのにはこの柵を超えて
行かねばならない。
”くぐる”という選択肢もあるにはあるのだが
ここの柵は横木の間隔が狭く、下手をすると
オシリが閊えてしまう危険が…ええ私、その
…安産型なので…
「…お姉様…私が其方に行くには柵を
登る必要があると思うのですけど…」
「え?そうなの?!」
私の言葉に大仰に驚いて見せるお姉様。
早くも三回目の“何を言ってるんだこの人は”
の登場である。
ホントに何を言っているのか理解らなくて
首を傾げていると、お姉様も同じ様に首を
傾げているではないか。
「…あの、私にどうしろと…。」
訳が分からなくて柵にしがみついたままの
体勢で疑問を投げかけると、お姉様は一瞬
怪訝な表情をした後『…ああ!』とひとつ
手を打った。
「なるほど。気付いてなかったのね。」
クックッと笑いながら柵の先…本来私達が
歩いて行くはずだった牧草地沿いの道の先に
お姉様は視線を送る。
それに倣って私も其方を向くと…
なんということでしょう…ほんの30メートル
程の所に……あったのです…門が。
『だったら何故柵を乗り越えた!』と、苦情の
ひとつも言いたいところだが…おそらく返って
来るのは『だって超えちゃった方が速いでしょ』
みたいな言葉に違いないのだ。
分かっているのだから言っても詮無き事である。
私はまたひとつ溜息を吐いて、お姉さまの靴と
折り畳まれたスカート、そして自分の靴を胸に
抱いて門に向かって歩き出す。
裸足で歩く土の道は暖かく心地いい。
お姉様も柵の向こう側で並んで歩いている。
草の感触がくすぐったいのか、時折小さく
笑っている様だ。
「それにしても…」
門に着く頃、お姉さまがポツリと呟いた。
「貴方いつもはもう少し周りを見ているのに
なんで今日は…こんな大きな門に気付かな
かったのかしらね?考え事でもしてたの?」
尤もな疑問である。
確かに普段の私はもう少し注意深い。
けれど、まぁ…今日に限った事ではないが
…たまたま注意が逸れる状況にあった…と
いうだけの事だ。
「…お姉様と会話をしながら歩いていたのです
から考え事ではないですね…そんな失礼な事
はしませんよ。」
「あら、そう?なら…う~ん…」
腕を組んで天を仰ぎ、真剣に考えこむお姉様。
…そんな大層な事じゃないんですけどね。
でも、お姉様には答えは教えませんよ。
だって…恥ずかしいじゃないですか…
『貴女の横顔に見惚れていました』なんて
…言えるわけありません。
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