本日のランチ
『食彩探訪』11月号特集
「11月19日 ほっと胸に染みわたる──肉豆腐定食」
文・撮影:田嶋 達郎(グルメ記者)
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昼どき、外気は冷え込みつつあるのに、店内だけは湯気と出汁の香りがほんのり漂い、まるで小さな暖炉のような空気が流れていた。
今日の日替わりは、心の底から温まる肉豆腐定食。
深めの鉢に盛られた肉豆腐は、まず見た目から優しい。
甘辛い煮汁が艶やかに光り、柔らかく煮込まれた牛肉がふんわり重なり合う。
その間に、存在感のある厚揚げ豆腐がどっしり腰を据え、全体の輪郭を整えている。
箸で割れば、中はしっとりと煮汁を吸い込んでいて、口に運ぶと“じゅわっ”と旨みがあふれる。
玉ねぎの甘みも絶妙で、牛肉・豆腐・出汁、この三者が静かに手を取り合うように調和していた。
味噌汁は豆腐とわかめの素朴な組み合わせ。
濃すぎず、薄すぎず、肉豆腐の余韻をやさしくつなぎとめる役目を果たしている。
副菜はほうれん草のおひたしと、軽やかな塩気の漬物。
肉豆腐の濃い旨みに合うよう、控えめながら存在感のあるラインナップだ。
そして、ふっくら炊き上がった白ごはんが、今日も最高の相棒。
気づけば茶碗が空になっていて、思わず自分で笑ってしまった。
湯気越しに見える温かい色合い。
しみじみと、「あぁ、これが日本の昼ごはんだ」と実感させてくれた一杯だった。
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◆次回予告
11月20日:香りとコクが主役──「焼き豚チャーハンセット」を予定。
レンゲの音が食卓に響く、あの幸福な瞬間をお届けします。
──今日も、いいごはんだった。
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