光と影のプリズム #どちらも本当のわたし
背中を優しく叩くマネージャーさんの声。
深呼吸をひとつ。わたしの名前は……ううん、ステージの上の名前はミウ。
普段のわたしは、大きな音が苦手で、人の視線にすぐ怯えてしまう、おとなしい女の子。
ちょっとした言葉に傷ついて、夜こっそり涙を流しちゃうようなメンタルの持ち主。
でも、この衣装を身にまとって、大歓声の渦巻くステージへ続く階段を上るときだけは、わたしの中に眠る『もう一人のわたし』が目を覚ます。
一歩、光の中に足を踏み入れた瞬間、何千人ものペンライトの海が視界いっぱいに広がった。
あまりの眩しさに、一瞬だけ、自然に片目がきゅっと窄まってしまう。
ファンのみんなは、これを『完璧に計算された天性のウインク』だって言って、大歓声を上げてくれる。
でもね、これは狙ってやったあざといポーズなんかじゃなくて、光が眩しくて、みんなの熱気が愛おしくて、無自覚にこぼれ落ちちゃっただけの、ただの自然な仕草なんだ。
ステージの上のわたしは、誰よりも輝いていて、無敵のオーラを放っているように見えるかもしれない。
だけど、スポットライトを浴びて最高の笑顔で歌っているミウも。
楽屋の隅っこで『ちゃんと歌えるかな』ってガタガタ震えている、臆病で繊細なアユミ(※普段のわたし)も。
どちらか一方が嘘偽りの仮面なんかじゃない。どちらも、『本当のわたし』なんだ。
傷つきやすくておとなしいわたしがいるからこそ、この一瞬の光のありがたさが、痛いくらいによく解る。
みんなの歓声が、わたしの壊れそうな心を包み込んで、本物のアイドルへと仕立て上げてくれる。
「……みんな、待たせてごめんね。今日一番のきらめきを、みんなに届けるよ」
イントロの重低音が、わたしの心臓の鼓動と完全にシンクロする。
さあ、臆病なわたしを最高の光で満たすための、愛しいステージが今、幕を開ける――。
呪文
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