青の剣
むかしむかし。
アクサン人の最初の年代記に、遠い昔のこととして書かれているお話。
東方のビオレという土地に住んでいたアクサン人の祖先は、洪水に悩まされていた。
洪水になる度に水竜が現れて、川の流れを変えては農地をダメにしたので、
この竜を倒すことがビオレ人の悲願だった。
西のドルガの地には干ばつに悩む土地があった。そこでは日照りの度に火竜が現れて空を飛びまわり
川を涸らし、不吉の象徴とされていたので、これを倒すことがドルガ人の悲願であった。
あるとき、ビオレの旅人レミールと、ドルガの旅人カシアンが出会い、互いの土地の悩みを打ち明けあった。
この二つの土地に棲む竜を戦わせれば、土地の悩みを解決できると考え
竜と話ができるというフエリヤ人の賢者フエリスを訪ねた。
日照りの日を待って、フエリスは火竜と話した。
なぜ川を涸らすのか。
竜は──
自分が涸らしているのではない。水が涸れるときには山がいかるので巣にいられないから飛ぶのだ。
と言った。
フエリスがビオレの地の水竜の話をすると、きっと理由があるのだろうと、いっしょに来てくれると云うので
レミールとカシアンとフエリスとドルガの竜は、ビオレの地までともに旅をすることになった。
─中略─
洪水が起きて、水竜が現れたのでドルガの竜はその前に立ちはだかり話をした。
水竜は、川の流れを変えて洪水を治められないか長年試してきたが、この土地も、自分ももう限界で
力尽きればたちまちビオレは海に沈むだろう。
ドルガの地が日照りに困っているなら、私とビオレの民をそこへ連れて行ってほしい。
と言った。
そして水竜はその身を「青の剣」に変えて、レミールに託した。
レミールはビオレの民にこの一連の旅の話をして、艱難の末に国を棄てる話をまとめ
みんなでドルガの地を目指すことにした。
カシアンとフエリスはドルガの竜とともに一足先にドルガの地へ還り、旱魃を解決できるかもしれないと話し、
ドルガの東にビオレの民を受け入れる準備をさせた。
家をつくり、水の通り道を拓いて、ビオレの竜を迎えるために簡素な神殿を建てたころ
青の剣を携えたレミールたちがやってきた。
青の剣を神殿に納めると、心地よい雨が降り始めた。
水の道に清らかな流れが満ちて地を潤した。
ふた月の後にはこれまでないほど立派な作物が取れ、それがずっと続いた。
ドルガの民とビオレの民はこうしてドルガの東に拓いた新たな国を
──アクサン(奇跡が流れている)
と呼び、自分たちをアクサン人であるとした。
呪文
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