水より濃く血より赤し (2)
「ありがとう、姫架。先に入ってくるね」
新居での生活が始まり、そろそろ一週間。
浴室で身体を洗ってから湯船に浸かると、じんわりと疲労が溶けだしていくようだ。
離婚騒動のごたごたにも、ようやく目処がつきそうだ。
課題のすべてが解決したわけでないにせよ、これからの生活を前向きに考えられる余裕が出てきた。
……そして、考えられるようになったからこそ、姫架との今後について向き合わなければならない。
血の繋がりがないといっても、僕は姫架との親子関係を解消するつもりなどさらさらない。そんなものがなくたって、姫架は自分にとってかけがえのない最愛の娘なのだから。
――だけど、僕が感じている愛情は、果たして親子としてのそれだけなのだろうか。
実を言ってしまえば、僕は姫架を異性として意識してしまっていた。元からスキンシップの過剰な子だったから、内心の動揺を隠すのに必死だった。
これまでは実の娘によこしまな気持ちを抱くなんて……と自分に言い聞かせてきたけど、今は違う。彼女と血の繋がりはないのだと、はっきりわかってしまったのだから。
あの美夜子の容姿は受け継ぎつつも、性格面では非の打ちどころがない姫架。愛らしく可憐で、僕を心の底から慕ってくれている彼女と、もう一度やり直せるとしたら……。
「……何を考えてるんだ、僕は」
今のは、いくら何だって最低すぎる。姫架の親権を勝ち取ったのは、そんな不埒な想像をするためじゃないはずだ。
茹だった頭を抱えつつ、湯船から立ち上がろうとしたその時。
「パパ、一緒にお風呂入ろ♥」
浴室の戸を開けて入ってきたのは、一糸まとわぬ姿の姫架だった。バスタオルすら巻いてない彼女から慌てて逃れようとするも、その手をぎゅっと握って引き留めてくる。
「昔みたいに、パパの背中を流してあげたいの。ねえ、いいでしょ?」
「で、でも……っ」
「わたしのためにいつも頑張ってくれてる、そんなパパにお礼がしたいの。それでも、駄目……?」
そんな風に懇願されたら、無碍に断ることなんてできなかった。なし崩しのまま、バスチェアに腰かけさせられる。
目のやり場に困ってしまった僕は、なるべく彼女の裸を直視しないように両目をつぶるより他になかった。
浴室の中に響く、ボディソープを泡立てる音。だけど、姫架は一向に背中を洗い始めようとしなかった。わずかに聞こえてくるのは、彼女の息づかいとスポンジが肌を滑る音。
様子がおかしい……そう気づいた矢先に、背中へふにゅんと柔らかな感触が押しつけられた。
「えいっ♥」
「はぅあっ!? ひ、姫架!? な、何をして……っ!!」
泡でぬるぬるしてて、すべすべで温かくって、瑞々しい弾力。断じてスポンジなんかじゃない。スポンジでなんてあるわけがない。
こともあろうに姫架は、ボディソープを塗りつけた自らの身体を僕の背中に密着させてきたのだ。
ボディソープの泡にまみれた幼い柔肌が、まるで僕を愛撫するかのように全身を這いずり回る。
美夜子とはずっとご無沙汰で、性風俗の類いも利用したことがない僕にとっては、かれこれ十年以上ぶりに味わう女性の肌の感触だった。
「姫架……っ、お願いだからやめて……!! 悪ふざけでやったとしたら、本当に取り返しが、つかなく……っ!!」
「もちろん、悪ふざけなんかじゃ、ないよ……? わたし、ずっとパパと……んっ、こうしたかったんだもん……っ♥」
「ひ、姫架……っ」
振り返った僕の目前に、姫架の顔がある。
真っ赤に染まった頬で、浅く呼吸を繰り返して……とろんと潤みきった瞳の奥には、抑えきれない発情の色が見え隠れしていた。
「ねえ、パパ。もう我慢なんてしなくていいんだよ。この家にはもう、邪魔をしてくる人はいない。わたしがパパのこと、いっぱいいっぱい愛してあげる」
「だ、だけど……姫架は僕の、大事な一人娘で……」
「でも、本当は血なんて繋がってないんでしょ?」
僕たちを繋ぎ止める最後の糸を、姫架は躊躇することなく断ち切った。
「だから、パパもわたしを愛して。二人っきりのこの家で……血が繋がってないわたしを、パパの女にして……♥」
呪文
入力なし