「掘り出し物」...
洋品店の前で立ち止まる。ガラスは割れ、マネキンは倒れ、所々に苔が生えている。服は黄ばみ、破れたものも多い。それでも、ふと目に留まったものがあった。棚の奥の方、瓦礫の隙間に埋もれるようにして置かれていた箱。それを引っ張り出すと、埃まみれのパッケージに「Nike」とのロゴがかすかに見えた。
エアマックス……限定モデル……。胸が高鳴る。手で埃を払うと、美しいデザインが現れた。鮮やかな色彩と、今では懐かしいテクノロジー。それはまるで、過去が私の手の中で再び生き返ったような感覚だった。
「あの頃」と言っていいのかも分からない。ここに来る前の世界、日常が普通に存在していた世界。私はこれを手に入れるために、行列に並んだあの日を思い出した。限られた数しか製造されないというアナウンスに焦り、朝早くから並び、ついに手に入れた靴。それが、ここで再び目の前に現れるなんて。
「何かの巡り合わせ……なのかな」
独り言が、廃墟の中に響いた。これを持ち帰るべきなのだろうか。価値があるのは、きっと私の記憶の中だけ。でも、それでいいじゃないか。これを拾ったことで、私の心の中に何かが灯ったような気がした。それは、ただの靴以上の意味を持っている。
私はその靴をそっと抱え、外の薄曇りの空を見上げた。この街も、この靴も、私の記憶の中で生き続ける。
※この物語は架空の設定で描かれています。廃墟を探索し、物品を持ち帰る行為を現実世界で推奨するものではありません。また、本作は過去の思い出や感情に焦点を当てており、物の価値を物理的な所有ではなく、記憶や感情の中で再発見する意図で書かれています。
404号室さんの企画「スニーカーと靴下」参加作品です。
https://www.chichi-pui.com/events/user-events/e0a57a57-e12c-5374-f500-b6cd9c203038/
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