『銀のポットと約束の紅茶』 (The Silver Pot and the Promised Tea)
黒猫紳士は毎月いちどだけ、おなじ日、おなじ時刻に、
小さなメイドさんとお茶を飲みます。
黒猫の名はミスター・ルグリム。
紅茶と契約と記憶の専門家。
フォックスのメイドの女の子の名はリス。
まだ耳がぴくぴく動く年ごろです。
「これはね、約束の紅茶なのだよ」
ミスター・ルグリムは言いました。
「一口飲めば、
きみの“未来にまっている悲しみ”をひとつだけ、
ぼくがかわりに背負うことができる」
リスは、しばらく考えたふりをして、こう言いました。
「じゃあ、ひとつお願いをしますね。
でもなにを頼んだかは、まだ言いませんけれど」
ミスター・ルグリムは黙って頷きました。
――紅茶の香りが、ふたりの沈黙をやさしく包みます。
やがて月日は流れて、少女は大人になり、
森を離れ、そして戻ってきて……
銀のポットにはまだ、最後の一杯分の紅茶が残っていたのです。
おしまい
呪文
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