…!?…? 謹慎部屋は乙女の戦場へ
そいや、ラーヴィ視点はちちぷい初?
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……どういう状況なのだろうか?
3月17日、日曜日の午前9時ちょうど。
魔王城の地下にある謹慎部屋。
そこに桜豊湖葵、夢崎月美――そして幼馴染のミントが、互いに顔を見渡せるよう三角形の位置取りで座っている。
葵は腕を組んだまま、キッと月美とミントを睨みつける。
月美は……うつむいて、どこか落ち込んだ様子。
ミントも……何とも言えない複雑な表情だ。
落ち込んでいるわけではなさそうだが、落ち着きがないのか、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
僕は死にかけていたせいで記憶が曖昧《あいまい》だが――ミントの肌には、拿捕《だほ》されたときに負った傷だろうか。
打撲の痕に加え、骨にも若干のダメージが見受けられる。
『お姉ちゃんとミントちゃんに会って、話を聞く』
――そう決意した葵を連れて、ここまで来たのだが……
ミントの様子はどこかおかしいし、月美も情緒が不安定だ。
……今この場を離れるのは、あまりにも不用心かもしれない。
「先日、ミントが暴走した件もある。廊下で待機しているから、何かあったら声をかけてくれ、葵」
そう言って席を外そうとした――その時、葵が僕の服の裾をそっと掴んだ。
「……ラーヴィ兄《にぃ》には、ここにいて。兄《にぃ》ににも、聞いてほしいの」
ふむ……なら、ここに滞在しておこう。葵の決意は本物だ。
ちらりと月美とミントの両名に視線を向ける。
月美は緊張した面持ちで僕と目を合わせ……ミントは、涙目で視線をそらす。
改めて、なんだろう? この状況は……
そう思った瞬間、ミントが僕に向き直り、頭を下げて謝罪を始めた。
「ご……! ごめんなさい……あの時、私……完全に暴走して……
あなたに、ひどいことを……でも、生きててよかっだぁ!」
号泣しながら、嗚咽まじりに僕の方へ近づいてくる。
――まあ、さすがにここでいつものように『かまわないよ』とは軽々しく言えない。
死にかけたのだから……それに……
《葵の視線が》、《すさまじい》。まるで『甘やかさんでよ?』と聞こえる気がする。
今まで浴びたことのない、独特の――刺すような、重たい視線。次の言動を、思わず躊躇してしまう。
でも、僕にも非があるのは確かだ。
葵の裸を見てしまった衝撃で、正直、意識が飛びそうになっていた。
その隙に、気づけばミントに袋叩きにされていたのだから……
注意力が欠けていたに尽きるだろう……そうでなければ、こんな騒動になっていないはずだ。
それにどこかで《ミントが本気で僕を殺すはずがない》と、甘く見ていたんだ。
ふむ。となると……やはり、こう答えるべきだろうか?
「かまわないよ、ミント……何とか葵のおかげで無事に済んだんだ。それに、防げなかったのは僕の未熟さが原因だよ」
その言葉を聞いた葵は顔を顰める……そこまでだめだったか?
そして、ミントは、涙交じりの表情で僕に寄ってくる……だが――!
葵は見逃さない。キッとミントを睨み、鋭く声を放つ。
「……せやきっち、死にかけるまでやる!? フツー!」
ピリッと、僕とミントの間に黒い雷撃が走る……これは――葵か? こんな能力まで習得したのか?
ビクッと震えるミント。だが、葵は言葉を止めなかった。
「激昂して、暴走して……兄《にぃ》にを死にかけさせるとか、ある!? 好きなんやろ!? なんでやの!?
そんなことで……ミントちゃん、兄《にぃ》にと幸せになれる思てんの!?
それどころか、これから何かあるたびに、また兄《にぃ》にを死なせる気なん!?」
容赦なく、完膚なきまでに言われてしまい、その場にへたりとしゃがみ込むミント。だが、反論に講じた。
「葵に何がわかるのよ! 私のこの気持ちが! 何さ、裸見せただけで、彼の恋人気どり!?」
「んなわけなかろーもん! 偶然見せちゃっただけで、そんなつもり一切ないけんね!? 勘違いしないでよ!」
「勘違いですって! だったらどうしてそんなに勝ち誇ってるわけよ!
それに! 葵だって、彼のこと好きになってるんでしょ! そして優位に立ってるからその態度なんでしょ!」
……すごい言い合いだな。ミント、たじたじになってる……強いな、葵。
最初は「話を聞く」って、葵は言っていたはずなのだが……これはもう、言葉の戦いじゃないか?
鋭利な言葉の応酬が続いている……
それに――葵が僕のことを、好き……? どういうことだ? ミント……そして、葵……?
「兄《にぃ》にからは、ただの護衛対象やけど? ミントちゃん。でもね?
ウチ、正式に兄《にぃ》にの番になりたいち思っとる。
兄《にぃ》にになら、ウチのすべて、差し出せる。そんな兄《にぃ》にを傷つけたミントちゃんが! ウチは許せんと!」
その言葉に、ミントは目を見開く。
そして――取り残されていた月美までもが、驚愕の表情を浮かべていた。
葵とは対照的に、二人は冷や汗を浮かべながら、葵の突然の告白に思考が追いついていない様子だった。
好きな人を傷つけられたから、怒ってる! 正当な理由を、これほどまでに突きつける葵に……頭が上がらなくなっていた。
そんな混乱する二人をよそに、葵はさらに言葉を重ねる。
「お姉ちゃんだって、兄にが100パーセント悪いわけじゃないのに、処罰しようとしたし!
それに、ウチの話、ぜんっぜん聞いてくれんかったやん! どういうことなん?」
……そして、次なる矛先は――月美に向けられる。
月美はビクンと小さく体を震わせ、天を仰いだかと思えば、そのまま深く俯く。
ぽたり、とテーブルの上に冷や汗が落ちる。……すごい量だな。
一方のミントは、まだ葵の告白と指摘に思考が追いついていないようで、目がぐるぐる回っている。
なんと、混乱のあまりウサギ耳まで具現化している始末だ。
「……ごめん、葵……ラーヴィ。素直に認めるわ。アタシも……嫉妬してた」
嫉妬……?
話の流れからして、どうしてそんな感情が出てくるのだろう?
ミントが激昂《げっこう》した理由――単純に、葵を守ろうとして僕を痛めつけすぎただけじゃないのか?
「好き」とか「恋人」、「番」なんて言葉が飛び交ってはいるけど、正直、話の筋がよくわからない。
とりあえず、今は傍観しておこう……
というか――葵は、僕と《番》になりたいってどういうことなのか?
裸を見られたから? それはそれで、別の問題が浮上してくるな……どうしたものか。
「嫉妬っち……ウチの裸を、兄にが見たことに対して、やろか?」
やはり、裸を見たか見てないかが《鍵》なのか? それとも、番になる覚悟があるかどうか……?
うーん、女性の感性は、やっぱり理解しがたい。
そう思っていると――月美は、静かにうなずいた。
「……やっぱり、ミントには悪いけど、アタシの裸を、番として一番最初に見てほしかった……誰よりも最初に。
それに――アナタと彼がキスしたことも……妬いてる。あと、もう一つだけ許せんのがね!」
**** エピソード後半へ続く ****
後半はR18に向かいます( ・ิω・ิ)
ほらな?(ΦωΦ)ノシΣ)・ิω・ิ)∵;v. 大丈夫!?まだ!
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