本日のランチ
『食彩探訪』11月号特集
「11月24日 香りがそっと包みこむ──鮭のホイル焼きセット」
文・撮影:田嶋 達郎(グルメ記者)
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昼前の静けさがまだ残る店内。
席につくと、厨房から聞こえてくるのは、ホイルが“くつっ、くつっ”と温まるあの音。
そして運ばれてきた瞬間、湯気とともに立ち上るバターの香りが、心の奥をやさしくほどいていった。
今日の日替わりは、鮭のホイル焼きセット。
銀色のホイルを開くと、ふわっと湯気が広がり、
ピンク色の鮭、しめじ・えのき・玉ねぎといった秋の香りが顔を出す。
箸を入れれば、鮭はふっくらとして驚くほどやわらかい。
バターのコクと醤油の香ばしさが溶け合い、
野菜の甘みと一緒に口の中で優しいハーモニーを奏でてくれる。
きのこはしっとりと旨みを含み、
玉ねぎは少し透き通って自然の甘さをそのまま閉じ込めていた。
シンプルな料理なのに、どうしてこんなに幸せなんだろう──
そんな気持ちにさせる一皿だ。
セットの味噌汁は、出汁の香りが豊かなやさしい味わい。
小鉢のほうれん草とひじきの和え物は、ほんのりとした甘さと風味が心地よく、
食卓に落ち着きを添えてくれる。
そして、ふっくらした白ごはんは、ホイル焼きの汁をまとわせればもう無敵。
思わず“もったいない”と心の中でつぶやきながら、一粒残らず味わってしまった。
ホイルを開いた瞬間の香り。
口いっぱいに広がる秋の恵み。
そして、ほっと息が漏れるような満足感。
この季節だからこそ出会える贅沢だった。
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◆次回予告
11月25日:まるで小さな鍋のよう──「鶏団子と野菜の塩煮セット」を予定。
湯気の向こうで、また新しいあたたかさに会いましょう。
──今日も、いい香りだった。
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