枕を売るRQ2
ありがとうございます💐
投稿した絵と関係性が弱いですが......
『推し変地獄──俺の財布に春は来ない』
(アサルトライフル乱射の世界線とは別の世界線です。)
「――全部、聞いてたのかよ」
控室の前で立ち尽くす佐々木(仮名)の耳には、今もあの言葉がこびりついて離れない。
「“顔面審査”って……“風呂入れ”って……俺のことだったんだよな……」
南條ひなた(仮名)。笑顔の裏であれほど辛辣に自分を笑っていたレースクイーン。
何より、「嫁」だと信じていた自分を、“笑いのネタ”として見ていたことが、何よりも堪えた。
その日を境に、佐々木は南條ひなたのSNSをブロックし、チェキをシュレッダーにかけ、グッズを段ボールに詰めて封印した。
「もう推しなんかいらない」「俺は、目を覚ましたんだ」――そう思っていた。思っていた、はずだった。
*
やはりどうしても我慢が出来ずに、古いCanon EOS Kiss 8xを持ち出してイベント会場に出かけた。
撮影するだけ。撮影するだけ。推しは作らない。絶対に作らない。
しかし、そこで目に入ったのが、新人レースクイーン如月まゆ(仮名)だった。
ツインテールにロリっぽい顔立ち、小柄な体にピタッとしたコスチューム。だが何よりも衝撃だったのは、
彼女がステージの端でしゃがみ込み、カメラを向けた佐々木に満面の笑みでウインクしてきたことだった。
「……え?」
心が溶けた。氷のように固まっていた“推し活の魂”が、再び火を吹いた瞬間だった。
*
如月まゆのSNSをフォローしまくり、彼女が現れるところに常に佐々木はいた。
「佐々木さん、いつも来てくれてありがとう♡ あのね、特別なご案内があるんだけど……言ってもいい?」
まゆがそっと耳元で囁く。
顔が熱くなる。こんな甘い声で名前を呼ばれたのはいつ以来だろう。
「じ、実は…まゆ、今回、*“限定グッズ”*を作ったんだ。誰にも言ってないんだけど、佐々木さんには特別に…教えちゃう♡」
出されたのは、如月まゆ・直筆サイン入り特製抱き枕カバー。
表面は爽やかなポーズのレースクイーンコスのまゆ。
裏面は――見たこともない大胆なランジェリー姿。視線は、受け手をまっすぐに見つめていた。
「えっ、これ…いくら……?」
「ん~、ほんとは非売品にする予定だったんだけど、佐々木さんには特別に……税込88,000円でいいよ♡ ※手渡しチェキ券10枚付き♡」
脳がバグった。
「……あ、ああ、カードで……一括で……!」
まゆは笑顔でスキャン端末を差し出した。
“ピッ”という音が、佐々木の財布に響く“死刑宣告”の鐘だった。
*
翌週、自宅に届いた包み。中には約9万円の“嫁”が、真空パックで納まっていた。
封を開けると、そこにはあのとき見たままのまゆの微笑み。
佐々木は静かにそれを抱きしめ、ベッドに転がった。
「……やっぱり、俺にはまゆちゃんがいる。こんなに優しくしてくれた推しは初めてだ……」
その夜、X(旧Twitter)にはこう書き込んだ。
『ひなたなんかじゃなかった。俺の本当の嫁は、如月まゆちゃんです!!』
*
ところが――数週間後、別イベントで佐々木は衝撃の光景を目撃する。
如月まゆが、佐々木が知るファンにも“耳打ち”していたのだ。
嫉妬心から聞き耳をたてた。
「え~っ、特別に言っちゃうけどね、この抱き枕……◯◯さんだけのために作ったの♡」
出されたのは、佐々木が買ったものとまったく同じデザインの抱き枕だった。
唖然とする佐々木。彼女の横で、そのファンが嬉しそうにカードを差し出していた。
まゆがいなくなった後でそのオタク仲間と値段の話になった。
「え、88,000円?俺60,000円だったよ?まゆちゃん、価格も変えてんだなぁ~」
*
佐々木は帰り道、電車の中で抱き枕の写メを見つめた。
その目は虚ろだった。
「……結局、また“財布”か……」
南條ひなたの嘲笑が、また頭の中でリフレインする。
『“俺の嫁”とか言われたら即返品したいレベル~(笑)』
耳を塞いでも、その声は止まらない。
*
その夜、佐々木は再びSNSにこう書いた。
『抱き枕って返品、できないですよね……』
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まゆ:未読
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