第6話「調理実習」
第6話「調理実習」
図書館での出来事から数日後。
みのり達のクラスでは、家庭科の授業が始まろうとしていた。
今日の実習は、カレーライス作り。
エプロン姿の生徒たちが調理台を囲み、教室は楽しそうな笑い声であふれている。
マグロちゃんもみのりの隣で、初めての調理実習に胸を弾ませていた。
「今日はみんなで協力して、おいしいカレーを作りましょう。」
先生の声に、生徒たちは元気よく返事をする。
「はーい!」
班ごとに役割が決まり始めた。
「野菜を切る人!」
「お鍋担当!」
「盛り付け担当!」
マグロちゃんは目を輝かせながら手を挙げる。
「私、野菜を切ってみたい!」
先生は笑顔で包丁を手渡した。
「じゃあお願いね。」
「はい!」
先生から包丁を受け取り、手にしたその瞬間。
キィン……
金属音のような耳鳴りが響く。
目の前の景色が一瞬だけ揺らいだ。
「本日のマグロ解体ショー、始まりまーす!」
大勢の拍手。
眩しい照明。
高く掲げられる長い包丁。
そして、自分が逃げ惑う姿。
「いやっ!」
マグロちゃんは思わず包丁を取り落とし、その場にしゃがみ込んでしまう。
教室が静まり返る。
「マグロちゃん!」
みのりが真っ先に駆け寄る。
「大丈夫?」
マグロちゃんは胸を押さえながら、小さく首を振る。
「ごめん……。」
「包丁を持ったら……なんだか急に怖くなって……。」
理由は自分でも分からない。
みのりは何も聞かなかった。
ただ優しく微笑み、
「じゃあ、野菜を切るのは私がやるね。」
と言う。
「マグロちゃんは、盛り付けをお願い。」
「……うん。」
少し安心した表情でうなずくマグロちゃん。
班のみんなも自然に役割を分担し直し、料理は順調に進んでいく。
やがて、湯気の立つカレーライスが完成した。
「いただきます!」
みんなで食べる手作りのカレー。
「おいしい!」
マグロちゃんの笑顔が戻る。
みのりもほっと胸をなで下ろした。
「また一緒に作ろうね。」
「うん!」
🐟
その頃。
校門の外。
木陰から社長とあみあが双眼鏡で校舎を見つめていた。
「今日は家庭科みたいですね。」
「ああ。」
いつものように騒ぐこともなく、静かに見守る二人。
しばらくすると、家庭科室の窓際で、マグロちゃんが包丁を落とし、みのりに支えられる姿が見えた。
社長は無言になる。
あみあも何も言えない。
長い沈黙のあと、社長がぽつりとつぶやく。
「……やっぱり。」
「まだ、あの日のことが心に残っているんですね。」
あみあは小さくうなずいた。
「社長。」
「はい。」
「今日は……帰りましょう。」
社長は校舎をもう一度だけ見上げる。
笑顔でカレーを食べるマグロちゃんの姿を遠くから見届けると、静かに踵を返した。
「また来ます。」
「今日はそっとしておきましょう。」
夕暮れの校門をあとにする二人。
その背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。
つづく
呪文
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