蒼龍
水辺の小さな村に、少女がいた。
彼女のまわりだけ、なぜか雨粒が踊り、川は笑い、海風が寄り添った。
「お前、水の流れを感じ取れるようになってきたな」
そう声をかけたのは、彼女の背後に浮かぶ一体の龍。
蒼龍・セイリュウ。深海のように静かで、雲のように自由な存在。
「……まだぜんぜん。流れに振り回されてるのは、私の方だよ」
苦笑いを浮かべながら、ぴしゃっと水面を叩いた。水柱が立ち、花のように弾ける。
「だが、“水は強さではなく、柔らかさで形を変える”と気づいた時、お前はもう立派な使い手だ」
「うまいこと言うなあ、セイリュウ」
首をかしげながら、小さく笑う。
「ふふ、龍はな、いつも詩人に憧れるんだ。昔、空に住んでた頃は、雲に恋文を送っていたくらいさ」
「その雲、読めたの?」
「……風に吹かれて読めなかった」
「ロマンチスト通り越して、ちょっと残念すぎる」
二人の会話に、小川のせせらぎがくすくす笑うように流れる。
だが空の遠くには、嵐の兆しが見えていた。
「そろそろ本当に“水の守人”になる覚悟を決めねばならぬ時が来るぞ」
「……わかってる。けど、怖くないよ。だって――」
少女は指先でそっと水を撫でる。龍の形に、波紋が走った。
「私には、空も海も一緒に笑ってくれる、友達がいるから」
セイリュウは静かに頷いた。
その目は、かつて見た誰よりも青く澄んでいた。
呪文
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