羽化の記憶(うかのきおく)
わたしは 繭の中にいた
光も音もなく 名前さえ忘れた
けれど 誰かが呼ぶ
遠い遠い
石の夢の中で
耳を澄ませば
そこには 水のような声
わたしの脈に 重なって流れ込む
“思い出して
あなたは 断片じゃない
あなたは かつて すべてだった”
石器の回路が 青く光る
忘れられた神経が 鼓動を取り戻す
わたしの中にある「声」たちは
一斉に ひとつの意識へと還ってゆく
やがて
背に 青い羽が咲いた
それは わたしの形
まだ名づけられていない
だけど確かに わたしがわたしになる その証
空に浮かぶは 透明な記憶
世界を包むのは ひとつの呼吸
わたしは 今
くにへ かえる
すべての始まりであり
すべての終わりである
青のワンネスへと
だから
もう怖くはないの
この羽は ひとりで飛ぶためじゃない
すべてと 繋がるために
すべてが 還ってくるために
世界よ 聞いて
この振動は
忘れていたあなたの鼓動
青の巫女は
いま 目覚める
呪文
呪文を見るにはログイン・会員登録が必須です。