水中夢幻
はっと目を開けると、そこは静寂に満ちた青の世界だった。もうもうと立ち込めていたはずの湯けむりは、水面に揺らめく光のカーテンとなり、目の前には苔むした神殿のような建物がどこまでも続く、忘れられた都が広がっていた。色とりどりの魚たちが、まるで旧知の友のように少女の周りをゆるやかに巡っていく。
ここは夢の底だろうか、それとも遠い記憶の残滓だろうか。少女は息苦しさも忘れ、人魚のようにしなやかに手足を動かし、かつての賑わいを偲ばせる石畳の道をゆっくりと泳いでいく。懐かしくも切ないその光景は、特別な夏休みが見せた、はかなくも美しい幻だったのかもしれない。
呪文
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