忍ルマーケティング
なにやら『ぶるまぁ』なる布切れを身に纏う忍びが跳梁しておるとか……」
越後屋「ほほう、お代官様も既にご存じとは、さすがに目端が利く。
手前も噂に聞き、浮世絵師に描かせたものを拝見いたしましたが、いやはや、けしからぬにも程がございまする。
殊に、このぶるまぁの食い込み具合と申しますか…まるで肉を咥え込むがごとく、妖しき色香を放ち、見る者を惑わすことこの上ない!」
悪代官「ほほう、食い込み、とな……。
うむ、忍びの装束がひらりと舞うたび、僅かに覗くぶるまぁの布地が柔肌に吸いつき、秘めたる艶姿をあらわにするとなれば、それはくのいち妖術そのもの!
想像するだけで、身の内より煩悩が滾り出す!」
越後屋「まことに仰せの通り! あれをただの衣と侮るべからず。
滲む汗に張り付き、布と肌とが一体となり申すさまは、さながら観音菩薩の霊験をあらたかにするがごとく!
目を奪われ、煩悩断ち難く敵いませぬ!」
悪代官「越後屋よ、お主の神仏に対する執着も大概よのう。されど、我が妄執も負けてはおらぬぞ。
忍びの娘が、はにかみつつも己が身を隠そうとするさま……ぶるまぁの食い込みを正す仕草は萌え出る華の奔流!
羞恥に火照る頬、戸惑いの眼差し、すべてが男の心を搔き乱す魔性であろう!」
越後屋「お代官様もまだまだお盛んにて……ならば、いっそこの流れを逆手に取るといたしましょう。
職人を雇い、ぶるまぁを誂え、これを市中に売り捌くのです。流行に敏き女どもは競って身につけましょう。
かくして、ぶるまぁの商いを我らが独占するという算段にございます!」
悪代官「ほほう……すべてのぶるまぁが我らが手より世に広がるとなれば、忍びの艶姿もまた、この掌の上にあるも同然というわけか。
越後屋、ただの好色者と見くびっておったが、なかなかに抜け目なき策士よのう!」
越後屋「いえいえ、お代官様ほどの欲深き御方の業には遠く及びませぬ……!」
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