小説『ラッキースケベは突然に』
去年の暮れ頃からかしら? この国の女性たちは、みんな身も心も綺麗で……
彼が誰かに取られてしまうんじゃないかと、心配になり始めたの。
ラーヴィが訓練場で、剣の構えを葵に教えているのを、私はただ黙って眺めていた。
すると、それに気づいたのかしら。彼が声をかけてきた。
「どうした? ミント。怪訝な顔をしているぞ?」
「はっ! ううん、なんでもないわよ?」
……見つめすぎちゃったかな。いけない……私も斧の素振り千回して、不安を振り払わなきゃ。
素振りを二百回ほど過ぎたあたりで、葵が休憩がてら、彼と話をしているみたい。
……あの笑顔……胸がズキンと痛むわ……
***
結局、その後、私は無心で斧を二千回ほど振り続けて、訓練場を後にした。ラーヴィと葵も一緒だった。
二人とも、いい汗かいちゃって……まあ、私もだけど。訓練着、塩を吹いちゃってるし。
……家庭教師の件から、この二人、距離が縮まってない? 絶対そうよ! だって、葵、彼を兄にって呼び出したし!
……そりゃ、ご両親のこととか、邪神に殺されかけた件もあるし……それに――
――葵を助けるために、彼はキスでマナを与えたりしてるし……
「……二人とも、仲良くなったよね? べつに、いいんだけどさ……」
胸がまた、ズキンと痛む……んもぅ……
「……ミントちゃん、ごめんね。でも、大丈夫やきね? ウチ、強くなりたくて、兄ににお願いしてるだけやき」
そういえば、葵は私の気持ちを知ってるのよね。「大丈夫」って……気を使わせちゃってる。私ったら。
「ううん、こっちこそ、他愛ないことでジェラってごめんね」
隠すのも、葵に失礼よね。反省しなきゃ。そして、相変わらずはてな顔のラーヴィ。
それに気づいたのか、葵は「やれやれ」と言わんばかりのジェスチャーをした。
……そっか。葵は、味方してくれてるのね。助かるわ。
月美がバレンタインの時、彼に告白したと知ったのは、その後のことだった。
とはいえ、彼女と仲たがいしているわけじゃない。でも、やっぱり……ちょっと気まずい。
いけない! 場の空気を重くしちゃだめ。明るく、明るく声を出そう――!
「それじゃ♪ シャワーで汗を流したら、食堂でご飯にしよっか?」
「ん、そうだな。葵はどうする?」
「ん~、ウチも兵舎の食堂、食べてみたいかな? すっごくお腹ペコペコやし♪」
三人とも汗だくで汚れていたから、まずは身を清めてから食事することにした。
***
葵は、あの事件以来、最重要護衛対象として、魔王城のかつて使っていた部屋に住むことになった。
いつまた、邪神の器として暗躍している椿咲様から命を狙われるか分からないから……
葵……辛いよね? でも、挫けずに頑張ってる。……本当に、すごく偉いわ。
「でも、ラーヴィは渡さないんだから……」
シャワーを浴びながら、つい、声に出ちゃった……
月美も、とても素敵な女性よ? 葵も――強くなりたいという思い、ご両親との別れを乗り越えて、快活で明るくて、可愛くて……
「……私って、どうなのかしら?」
彼の幼なじみ……家族……それだけなのかしら……
それに、生贄を救うため、飯野姉妹とも距離を縮めているし、ルミィア先生も、ポーションの実験やら何やらで、彼と距離が近くなってる。
ホタル……は、パートナーがいるから大丈夫よね? 興味ないって言ってたし。
みんな、一癖あるけど……綺麗で、とても良い人たちばかりじゃない?
私は――どうすれば、彼のナンバーワンになれるのかしら?
□■□■
兄にと、ミントちゃんと別れたあと、昔使っていた部屋のシャワールームで汗を流す。
……ミントちゃん、勘違いしちゃってないよね?
ウチ、そんなんじゃないからね?
……とはいえ、兄にとキスしちゃったし……でも、あれは不可抗力よね? 死にかけてたんだし……
……でも、ごめん……ミントちゃん。もしかしたら……ウチは…
「……兄にが、欲しいかも……」
声が漏れちゃった…助けてもらったから?
それとも、家庭教師として接する時間が増えたから?
それで、彼の人となりを、知ってしまったから……
強くて、仲間思いで……とても優しくて…そして、カッコいい。
もちろん、ウチだけじゃない。兄には皆を、仲間を大事にしている。
皆、兄にを見る目が、ここ最近随分と変わった気もする…
月美お姉ちゃんも……兄にに告白してたし…狙ってるんよね?
「……ウチが、しゃしゃり出ちゃダメ……よね?」
……うん、そうやん。よし! 決めた!
ウチは強くなるために、兄にに師事してるんやし。色恋をしたいわけじゃない!
メンタル面でも、鍛えなきゃ。うん! シャワーも浴びたし、ごはん食べに行こう!
お腹も空いたし……すごく……
ん? なんやろ……? マナが、体からにじみ出て……へ? え、えええっ!?
か、体が青く光ってる!? 嘘やん、これ! ど、どうしよ!? に、兄にに相談しなきゃ!
と、とりあえず体を拭いて、髪を乾かす。
ん~……この体の発光、なんなんやろぅ……不快感は無いけど、怖い!
部屋に備え付けの内線電話から、兄にの部屋に電話をかける。
『……ん? 葵か? どうした?』
「えっと、兄に! すぐ来れる? 体が! 体がねっ!?」
電話が切れると、十秒と経たずに、部屋のドアがノックされた。
「大丈夫か、葵!?」
「兄に、ちょっと……ウチの体、見てくれん!?」
体の光は収まってくれない。むしろ、兄にが近づいたせいか、なぜか――
兄にと繋がっているような不思議な感覚までしてきた。
そのまま、ウチはドアの鍵を開けて、ガチャッと開けると――
「……兄に? なんでポカンとして……え?」
彼が突然、顔を手で覆って後ろを向いた。な、なんで? どうしたと?
「ちょっと! ウチの体、見てほしいっち言ったやん! 光ってるんよ!?」
「……葵、一つ、いいか?」
「へ? な、なんなん……?」
兄には後ろを向いたまま、何故か……耳が赤い? なんで?
「服を……着てほしいんだが?」
「…………へ?」
ふ……く? ふく……って、服……
――気がついたら、ウチ……全裸やん……
はあああああああああああっ⁉
「あ、ああああああああああ‼‼」
「ドア閉めて! は、早く!!」
なんで裸!? あっ、そうやん!
体を拭いて、髪を乾かして……で、体が光って……そのまま兄にに電話して……
「☆!?〇Ж???あがZでらえあがSだSKDJぁFぱえGたえあ;ぇKじゃG;SDLKJふぁ;お!!」
訳の分からない悲鳴が、お腹の底から飛び出て、《ウチは神速でドアをバタンッ!》と閉めた……
「だSだGFSだFDさFすぁえがえだKJふぁ;DFじゃだがええあ」
変な叫びが止まらない! ぁぁぁ! 羞恥心で押しつぶされそうやんこれ!
ウチ……裸を兄にに見せちゃった……
ああああああああああああああああああっっっ‼‼‼
呪文
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