赤点は論破不能
奨学生のフェイ=グレイは平民の出身で、実技魔法は苦手だが論理的な思考と記憶力に優れていた。だが、学苑には出自や身分を重視する貴族派の生徒が多く、中でも名門のラヴィニア=シュトラウスはフェイを目の敵にしていた。
ある日、ラヴィニアは「奨学生の能力不足」を理由にフェイの奨学金を剥奪する提案書を提出した。学苑は紛糾したが、校則に従い、判断は学苑最大の公式競技「弁論祭」での決着に委ねられることになった。
フェイは途方に暮れながらも、親友のミレーヌと資料室にこもり、夜遅くまで議事録や設立規約、魔術書類を調べ上げた。フェイは積まれた“実技単位レポート”の用紙を一度手に取っては、今は論証が先だと脇へ戻す。やがて、フェイは古い規約の一行に指を止める。
「ほら、ここ! 貴族特権は民衆の信任に由来する、って書いてある。身分差別を正当化する規約は、そもそもこの理念に反してる!」
弁論祭の当日、豪華な講堂は生徒や教官で満員だった。審査員のデュラント教官は厳しい目で見つめている。フェイの“紙で論理を剣にする”という噂めいた仇名をささやく声が客席の端で上がった。
ラヴィニアは堂々と壇上に立ち、誇り高く宣言した。
「奨学生制度は実力に基づくべきです。平民出身のフェイは魔法実技が劣り、学苑の伝統を脅かしています。限られた研究資源を低い実技成績の者に配分するのは制度趣旨の逸脱です。能力なき者に貴重な奨学金を与えるのは規約違反です!」
貴族派の生徒たちは拍手喝采した。
フェイの心臓が高鳴ったが、深呼吸して壇上に上がった。
「確かに私は実技が苦手です。しかし、規約にある貴族特権は民衆の信任に基づいています。出自のみで能力を判断する規約は、学苑の根幹理念を自己否定するものです!」
ラヴィニアの眉がピクリと動いた。その瞬間、彼女の瞳にかすかな動揺が走った。まさか平民の口から、そこまで制度の核心を突く言葉が出るとは思っていなかったのだ。
フェイは続ける。彼の足元で巻物の紙端が細い光線に引かれ、紙片が刃の骨格のような直線を形づくり始めた。
「もし差別規約が持続するなら、それは自ら法の正当性を破壊する行為にほかなりません!」
瞬間、フェイの言葉は空中に幾何学模様の光線を織り成し、淡い金色の魔術陣がゆっくりと浮かび上がった。細かな符号が環状に回転し、論理の整合性が魔法として具現化され、美しい光となって会場全体を照らした。客席に一瞬の沈黙。ラヴィニアは再反論の語を探したが、光の輪は崩れる気配を見せない。審査員のデュラント教官が静かに立ち上がった。
「……規約前文第六節との整合を認め、フェイ=グレイの論理は真実である。よって、提案を棄却する!」
歓声が響き、ラヴィニアは憤然と席に戻った。自らの論理が完璧であると信じて疑わなかった彼女にとって、敗北は予想外の屈辱だったのだ。胸の奥で次こそは理論を補強すると静かに誓いながら。フェイは奨学生の地位を守り、称賛を浴びた。
その晩、学食はフェイの勝利を祝う生徒たちで賑わっていた。歓声の渦の片隅で、フェイは“レポート”の文字が頭をよぎり、すぐに押し流した。ミレーヌが微笑む。
「やったね、フェイ!」
「ありがとう、ミレーヌ。君のおかげだよ」
だがその時、事務職員が申し訳なさそうにやってきた。
「あの……フェイ君、実技単位レポートが未提出です。で、規則により再集計した結果、君の成績は赤点になりました」
一瞬、静寂が訪れたが、すぐに笑い声が湧き起こった。フェイはバツの悪そうな表情を見せた後、机の隅に積み上げられた補習課題をうらめしそうに見つめた。
真夜中の学食。仲間の去った席で、フェイは一人黙々と課題の山に取り組み始める。勝利の余韻がまだ耳の奥に残る中で、彼の表情にはどこか晴れやかな達成感と、静かな反省が入り混じっていた。偉大な弁論術を操った「紙剣の王」も、赤点には勝てなかったのだ。
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