本日のランチ
『食彩探訪』11月号特集
「11月14日 湯気の向こうに漂う海の香り──サバの味噌煮定食」
文・撮影:田嶋 達郎(グルメ記者)
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窓の外は小雨。しっとりと冷えた空気の中、店の戸を開けた瞬間に広がるのは、味噌と生姜の香ばしい香りだった。
今日の日替わりは、サバの味噌煮定食。
湯気をまとった皿の中央には、銀青色の皮がつややかに光るサバの切り身。周囲の味噌だれは琥珀色で、わずかにとろみを帯び、見ただけで“ご飯が進む”予感がする。
箸を入れると、身はほろりと崩れ、脂がじんわりとにじむ。
味噌の甘みとコク、生姜の香りが見事に調和し、サバの旨味をやさしく包み込む。
骨の一本一本まで柔らかく、噛むほどに海の滋味が広がる。
添えられた千切り生姜が、後味をきりっと引き締めてくれるのも心憎い。
湯気の立つ味噌汁は、豆腐とねぎの素朴な味。
そして、白ごはんの甘みが、味噌だれの濃厚さと絶妙に絡み合う。
食べ進めるうちに、身体がじんわりと温まり、心までも穏やかにほぐれていくのがわかる。
派手さはないが、これぞ定食屋の真骨頂。
魚と味噌、そして炊きたてのご飯──それだけで十分なごちそうだ。
食後、器の底に残った味噌だれをそっとご飯にのせ、最後の一口を頬張った。
──「あぁ、日本に生まれてよかった」と、心から思える味だった。
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次回(11月15日)は、ほっこり優しい「親子煮定食」。
湯気と笑顔が似合う昼の食卓を、まだまだ追いかけていく。
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