市場で迷子
だが、市場についた時点で夕食というには少し早い時間だった。
なので、夕食にちょうどいい時間になるまで市場をぶらついて時間を潰そうという事になった。
この市場は区画ごとに色々なものが売られており、飲食物ならば大概のものは手に入る場所だった。
各自思い思いに好きなところを見て回る赤上家。
妹の小鈴は甘いモノが見て回りたい(絶対見るだけじゃすまないが……)と言ってお菓子関係が売っている場所へ向かった。小鈴一人では心配なので、母志織も一緒に行ったようだ。
父天馬と祖父伊織は二人ともお酒を売っている場所に行き、試飲などしながら思い思いにお酒を見て回っていた。
……まあ、もちろんこれも見るだけでは終わらないだろうが……。
そして、兄小織は一人で野菜を見て回っていた。
別に野菜に興味があるとかではないし、野菜が食べたかったわけでもない。
ただ単に、甘いモノを探しに行くと必然的に小鈴と一緒の所を見て回る(小織と小鈴は甘いモノの好みが非常に似ている)ことになり、つまり母志織とも一緒に行動することになる。
別に、妹の小鈴の事が煩わしい訳でも、母の志織の事が嫌いなわけでもない。単にこの年頃の男子がなんとなく家族と一緒に行動するのを嫌がる、いわゆる反抗期的な感情があっただけだ。そして、その反抗期的な感情も明確に反抗しているとかではなく何となく嫌な感じがする、その程度だった。
とにかく、一人で野菜を見ていた小織。
「やあ、君一人?」
「へ?」
いきなり声をかけられ、間抜けな返事と共に振り返す小織。そこにはいかにもチャラそうな茶髪の大学生くらいの男がいた。
「君、可愛いね!どう?これから俺と一緒にお茶でも…」
男がそこまで言ったところで、小織は気が付いた。
(あ、これ…俺に言ってるんじゃなくて女子をナンパしてるんだ。でも、どんな可愛い子だろ?)
ちょっと気になった小織はキョロキョロと周りを見て見る。だが、生憎と近くに女の子はいなかった。
(あれ?)
疑問に思う小織。遠くにいるのかと周囲を見回すが、大学生の男子が声をかけそうな可愛い女の子も、奇麗なお姉さんもいない。いるのは、中年のおばちゃん達と、野菜類の品出しをしている市場の従業員(男)だけだ。
思わず首をかしげる小織。その時……。
「ちょっとちょっと、無視は酷いんじゃない?さすがに傷つくなぁ!」
そう言って男は小織の手首を掴んできた。
「ひゃっ!」
思わず甲高い変な声が出る小織。しかし男はニヤニヤしている。
「あ、もしかしてナンパされるの初めて?大丈夫だよ、別に怖くないからさ!それよか……どうかな?これから俺と……カラオケからのお酒でも!」
ちょっとテンションの高い男。だがこれだけ言われればさすがの小織も自分に言われているのが分かる。思わず眉をひそめる小織。
「あの………あなた、さっき俺のこと可愛いって言いました?」
「もちろん!え?もしかして……もっと言ってほしい感じ?」
「いえ、そうでは無くて……あの…ちゃんとメガネをかけた方が良いんじゃないかと……」
「は?」
小織の言葉に男はポカンとしていた。言われたことの意味が分からない様子だ。
「えっと……俺みたいなつまらないモブ顔した男子を可愛いと思うなんて……恐らく視力低いんじゃないかと……乱視も入ってるかも」
本気でそんなことを言っている小織。そして、そう言われた男は……段々と顔が赤くなり、目が吊り上がっていった。完全に怒っている顔だ。
「おい!ちょっと可愛いからって調子に乗ってんのかテメエ!あんま舐めたこと抜かしてると、その可愛い顔ボコボコしてやるぞ!」
「ひっ!」
男に凄まれ思わず悲鳴を上げる小織。だが、それで小織が委縮したと思ったのか、男は再び小織の手首を掴んだ。
「ちょっと優しくしてからホテルに連れ込もうと思ったが……やめた。お前、こっち来いよ、このままホテルに連れ込んでやる」
そう言ってぐいぐい小織を引っ張って行こうとする男。当然小織は男の手を弾いた。
「や、やめてください!俺、もう行きます!」
そう言ってそのまま踵を返してダッシュで逃げだす小織。
「あ!待て!」
男の声が聞こえるが完全に無視。そのままとにかくメチャクチャに逃げ回った。
そして……………………メッチャ迷子になっていた。
「………ふぇ………ここ何処~……」
半ベソかきながらトボトボ歩きまわる小織。
回りには見たことも無い魚や、ちょっとグロテスクな内臓肉などが置かれており、余計に恐怖心をあおる。
「どうしよう……………」
こういう時に限って誰も見つからない。今の場所も分からない。
「ふ……うぐ………」
さっきの男とのやり取りもあって思わず涙がこぼれる小織。
「……なんで…俺が………こんな目に……」
プルプルと震え、思わずしゃがんで泣き出してしまいそうになった。
その時………。
「いや、このソーセージ絶対美味いですよ!ビールにあいますって!」
「待て待て、こっちの塩辛も捨てがたいぞ!日本酒ならこっちじゃろう!」
何か聞き覚えのある声が聞こえ、思わず顔を上げると………そこには何やら嬉々としておつまみになりそうなものを選んでいる父親と祖父の姿が………。
「………………………」
思わず涙も引っ込み、しゃがんだまま凄いジト目で父天馬と祖父伊織を見ている小織。その視線はとても非難がましい。
「おわ!あぶな………って、小織?何やってんだこんな所で?」
「別に………」
しゃがんでいた小織につまずきそうになって初めて小織に気が付いた天馬と伊織、二人とも何でこんな所で小織がしゃがんでいるのか分からなかったが、何となく事情を察した。
「何をやっておるんじゃ小織、そろそろ飯を食いに行くか」
「そうそう、父さんさっき上手そうな海戦の店見つけたからそこにしような!」
二人の言葉に、何となく元気付けられたというか………泣きそうになっていたのがバカらしくなった小織。
「どうせなら寿司が良い」
小織のその言葉に顔を見合わせる天馬と伊織。そして二人とも苦笑いする。
「よし!それなら寿司屋捜すか!」
「そうじゃな、志織と小鈴とも合流しないといかんしのう」
「うん!」
何となく二人のおかげで少し元気が出た小織。
この後小鈴と志織とも合流し、5人で寿司屋に言って食事をしたのだった。
・
・
小鈴「お兄ちゃん!このマグロ、超美味しい!」
小織「ふ、妹よ……確かにマグロは美味いが……やはり通が食べるべきは白身の魚だろう!」
小鈴「例えば?」
小織「え!?………え~っと………え、えんがわとか………」
小鈴「へ~!そうなんだ!えんがわってどんな魚なの!?」
小織「え!?…えっとだな………身が厚くって白身で……」
志織「小織、小鈴、えんがわは魚の名前じゃなくってヒラメとかのヒレの付け根の部分のことよ」
小鈴「へー!そうなんだー!」
小織「………………(恥ずかしい)」(〃ノωノ)
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