褐色エルフさん・愛の波(新婚IF)
##南洋エルフ族の風俗「愛の波」##
●起源と文化的背景
「愛の波」は、サウクレド群島で古くから伝わる親密な風習です。元来は新婚夫婦の初夜に行われる神聖な儀式として誕生しました。サウクレド群島の「潮風信仰」では、海の女神が新たな命の誕生を祝福するために波の動きを教えたとされています。
この風習の根底には、南洋エルフ族の自然観が反映されています。彼らは自然の流れや波のリズムを重視する文化を持ち、潮の満ち引きのように波打つような動きを、生命力と結びつけて神聖視していました。伝統的には、新婚の妻が特別な香油(「女神の涙」と呼ばれる)を全身に塗り、月の満ち引きを象徴する波のような動きで夫と一つになることで、豊穣と幸福な結婚生活を祈願するものでした。
●大陸への伝播
この風習が大陸に広まったのは、統一暦1750年頃からと言われています。サウクレド群島と大陸の交易が活発化する中で、歓楽街で働いていた南洋エルフの女性たちが、「特別な客」のために家族的な祝福の意味を薄め、官能的な側面を強調した形でこの技法を披露し始めました。
最初にこの技法を体験した大陸の商人や船乗りたちの間で、その独特な快感が口コミで広まり、次第に「愛の波」の名前で知られるようになりました。特にアステリア連邦の港町を通じて、連邦内の主要都市へと伝播していきました。
●「愛の波」の実践
「愛の波」の特徴は、全身を使った波打つような動きと、香油の使用にあります。
南洋エルフ族の女性は、サウクレド群島特産の香油を全身に塗布します。この香油は専門的な施設で熟練の職人によって製造され、希少な花々や熱帯フルーツから抽出された精油を独自の配合で調合したものです。代表的な香りには「満月の海」「珊瑚の夢」「南風の囁き」などがあり、それぞれ異なる香りのプロファイルを持っています。
塗油の後、南洋エルフ女性は波のようなリズミカルな動きで相手の体に自分の体を滑らせていきます。この動きは潮の満ち引きを模しており、緩やかな開始から次第に強まり、そして再び穏やかに戻るというパターンを繰り返します。伝統的には七つの波のサイクルがあるとされていますが、実際の実践では様々なバリエーションがあります。
香油により肌と肌が滑らかに触れ合い、全身の感覚が研ぎ澄まされることで、通常の性行為とは異なる、より全身的で波のように押し寄せる快感が得られるとされています。特に南洋エルフ族特有の綿密なリズム感覚と、世代を超えて伝承されてきた微妙な動きの技術が、この体験を特別なものにしています。
●現代における「愛の波」
現代のニドヴァル大陸では、「愛の波」は主に三つの文脈で存在しています。
1. 南洋エルフ族の伝統として
サウクレド群島では今も新婚夫婦の間で神聖な儀式として実践されています。結婚前の女性は母親や祖母から基本的な動きを教わり、結婚の準備の一環として身につけます。この文脈では宗教的・文化的な意味合いが強く、外部者に詳細が語られることはほとんどありません。
2. 歓楽街の特別サービスとして
大陸の主要都市、特にアステリア連邦の港町や南洋エルフが多く暮らす地区の歓楽街では、「愛の波」は高級娯楽として位置づけられています。本場のサウクレド群島出身の女性が提供するサービスは特に高値で取引され、富裕層や貴族の間で密かな人気を博しています。
ニューアルディンの歓楽街にある高級娯楽施設では、「真珠の間」と呼ばれる特別室で、厳選された南洋エルフの女性たちによる本格的な「愛の波」が提供されていると言われています。一晩の料金は一般的な月収を上回るほどです。
3. 愛好家の間の文化として
一般の人々、特に夫婦の間でも、「愛の波」の技法を取り入れる動きが広がっています。サウクレド群島から輸入された香油(大衆向けに簡略化された配合のもの)や手引書が、密かに流通しています。
アステリア連邦の都市部では、表向きはマッサージ技術や「異文化理解」としての講座が開かれることもあり、実際に夫婦生活に取り入れる人々も増えています。
●南洋エルフ族自身の見解
南洋エルフ族の中でも、「愛の波」の商業化については意見が分かれています。伝統主義者は神聖な儀式の変質を嘆く一方、実践主義者は文化交流の一形態として、また経済的な機会として肯定的に捉えています。
①サウクレド群島の文化保存活動家の意見: 「『愛の波』は本来、女神の祝福を受け、新たな家族の絆を深め、命を創造するための神聖な儀式です。それが商業化され、本来の意味を失っていることは残念です。しかし、私たちの文化が他の種族に関心を持たれることは、交流の可能性を広げるという点では良いことかもしれません。」
②サウクレド群島の高級娯楽施設のオーナーの意見: 「文化は変化するもの。『愛の波』も私たちが誇るべき文化の一部です。確かに商業化されましたが、それによって多くの人々が南洋エルフの文化の素晴らしさを知るきっかけになりました。私の施設では、技術だけでなく、その歴史的・文化的背景も含めて伝えるよう心がけています。」
●「愛の波」の香油について
「愛の波」で使用される香油は、サウクレド群島の特産品として高い価値を持っています。特に伝統的手法で製造される最高級品は、ニドヴァル大陸全土で高値で取引されています。
最も有名な香油のブランドには以下のようなものがあります。
1. 女神の涙: 最も伝統的かつ高級な香油。新婚夫婦向けに特別調合され、「融合の泉」の近くで採取された希少な白い花の精油をベースにしています。一般には流通せず、サウクレド群島の結婚式でのみ使用されます。
2. 珊瑚の夢: 珊瑚礁近くで育つ特殊な海藻と熱帯フルーツの香りをブレンドした香油。商業的に最も成功した製品で、アステリア連邦の高級店でも入手可能です。
3. 南風の囁き: シトラスの香りをベースに、微かな花の香りが混ざる軽やかな香油。比較的手頃な価格で、入門用として人気があります。
これらの香油は単なる香りだけでなく、血行を促進する効果や、受胎確率の上昇等の効果もあるとされています。
アステリア連邦の香料商人の意見: 「サウクレド産の香油は、私のような専門家から見ても驚異的な品質です。特に『珊瑚の夢』はニューアルディンの貴族から熱狂的な支持を受けています。残念ながら需要に供給が追いつかず、偽物も出回っているので注意が必要です。」
●結びに
「愛の波」は、南洋エルフ族の文化が大陸に広まった興味深い事例の一つです。本来の文化的・宗教的意義は希薄化したものの、種族間の交流や相互理解を促進する役割も果たしています。
商業化や変容を経ながらも、根底にあるのは南洋エルフ族の自然観と生命力の祝福という精神です。「簒奪戦争」後のマナ減少時代において、魔法に依存しない感覚的な喜びの追求は、彼らの適応力と創造性の表れとも言えるでしょう。
「愛の波」は今も進化を続け、ニドヴァル大陸の様々な地域で、様々な形で受け継がれています。それは単なる性技法ではなく、南洋エルフ族の歴史と精神性が織り込まれた生きた文化遺産なのです。
――統一歴1822年著『南洋エルフ族・その知られざる文化』より抜粋
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