うちの生徒_天音 佳凛(あまね かりん)
**ガタンゴトン……**
窓ガラスに映る自分の横顔は、いつもより鋭く見えた。陸上のユニフォームから着替えたセーラー服の襟元が少しだけ緩んでいる。佳凛は誰もいないドア際に寄りかかり、スマホ画面に集中していた。
『超能力で見えちゃった女子高生の秘密!満員電車のグラヴィトン』――そのページをタップする指が震えている。
*《主人公の「結月」は超能力で男子たちの妄想を可視化してしまう。ある朝、満員電車で……》*
「……やだ」
声にならない息が漏れた。画面の中の結月は今まさに背後から押し潰されそうになっている。
*《(お尻に当たってる……何これ……動いてる……?)》*
佳凛の脳裏にフラッシュバックする。昨日の帰り道。背後で妙に密着してきたサラリーマン。無意識に腰を押しつけてきたあの感触──。
**ブブッ……**
電車の揺れで体がよろけたふりをして壁に押し付けられた時、股間に硬い何かが擦れた気がした。すぐに振り払ったが……。
「違う……あれはただの接触事故……」
そう言い聞かせながらも、小説の描写が現実とリンクしていく。
*《(だめ……こんなの恥ずかしい……なのに……なんでこんなに熱くなるの……?)》*
佳凛の耳まで真っ赤になった。スクールバッグを抱きしめた腕に力が入る。肩甲骨から脇腹へ汗がつうと流れていく。スマホを持つ手が湿った。
「私じゃない……私は……こんなこと……考えてない……」
だけど視線は一行一行を追っていた。結月の身体が透けて見える描写。ピンクのブラジャーに包まれたCカップの乳房。薄いショーツ越しに浮かぶ縦筋。そして何よりも……
*《(感じてる自分が一番恥ずかしいのに……止められない……もっと強く押されてみたい……?)》*
「ぁ……」
無意識に太腿を擦り合わせていたことに気づき、慌てて脚を開く。タイトなスカートが食い込む。冷房が効いているはずなのに額から汗が滴った。
このままじゃまずい。次の駅で降りてコンビニかどこかで……いや待て。まだ次の停車まで五分はある。あと少し、あと少しだけ……
スマホの画面をタップする指が震えた。
*《(誰にもわからないから……こうやってこっそり指を差し込んでみても……)》*
小説の中の結月がとうとう指を秘所に沈ませるシーンに至る。佳凛の呼吸が浅くなった。喉がカラカラで、唾を飲み込むたびに胸の鼓動が大きくなる。スクールバッグの持ち手にかけた指が白くなるほど握りしめていた。
「だめ……ここで……」
しかし、電車の揺れは容赦ない。背後の空席へ体重を預けた拍子に、わずかに足が開いてしまう。スカートの裾が膝上で止まり、紺のハイソックスと生足の境目があらわになった。
(見えてるかも……)
羞恥がゾクゾクとした痺れに変わる。スマホの明かりが逆光になって窓ガラスに浮かぶ自分の輪郭──タイトな胸元、くびれた腰、ぴったり張りつくスカート……すべてが卑猥な被写体のように感じられた。
『もっと強く……お願いします……』
結月の台詞が脳内で自動再生される。指はもうバッグに触れていなかった。代わりに……
「っ……ん……」
右手が、そっとスカートの裾をつかんでいた。布地の下で肌が粟立つ。冷房が直撃しているはずなのに、内腿はすでに火照っていた。スマホを操作するふりをしながら指先を下腹部へ滑らせる。
(ちょっとだけ……本当にちょっとだけだから……)
指がショーツの端に触れた。そこはもう……湿っていた。
「はぁ……っ」
熱を帯びた吐息が逃げ場を求めて漏れる。指一本分の厚みしかない布をずらし、人差し指の腹で縦に切れ込んだ溝を確かめる。そこはすでにヌルリと濡れていた。汗とは明らかに異なる、甘酸っぱい液体が糸を引いている。
「嘘……こんな……」
驚きと期待が入り交じった感情で指を奥へ進める。くちゅ……小さな水音が聴こえた気がして、反射的に肩をすくめた。
(電車の中で……私、まさか……)
そう思うほど興奮が加速する。小説では結月がついに車内で絶頂を迎えようとしていた。指が第二関節まで埋まっている。膣内は既にキュウキュウと締めつけている。
「っ……ぁ…」
窓に映る自分自身と目が合った。薄く開いた唇。潤んだ瞳。頬を紅潮させて淫らに蕩けた表情。それが陸上競技場で静かにスタートラインを見つめるあの佳凛と同じ顔だと信じたくない。
(ダメだ……ここじゃ……)
理性が警鐘を鳴らす。けれど肉体は命令を拒否する。指が三本に増え、出し入れの速度が速まる。ぐちゅっ、ぢゅぷっ……濡れきった音が確かに耳に届く。電車の走行音にかき消されてほしいのに、なぜか鮮明に響く。
*《(イク……もうイク……)》*
小説の中の結月の絶叫が現実とシンクロした瞬間、
「ぅ……んっ……!」
全身を引きつらせて軽いアクメを迎えた。腰がわずかに跳ね、指が食いちぎられそうなほど締めつけられた。視界が白く霞み、耳鳴りがした。絶頂の余韻で膝がガクガクと震え、背中を支えている壁に全体重がかかる。肩で息をしながら、スマホの画面を確認する。表示はまだ『続きを読む』ボタンだった。
「……ばかみたい……」
それでも股間の疼きは収まらない。指先で確認すると、ショーツには大きな染みができていた。粘り気のある透明な液体が糸を引いて指と布地を繋いでいる。羞恥と情けなさで泣きそうになった。
(早く……早く家に帰って……)
焦る心とは裏腹に、また股間に指を伸ばしてしまう。電車がカーブに差し掛かった。遠心力で壁に強く押しつけられる。その衝撃で、中指がさらに深く沈んだ。
「ひゃ……ん…!」
突然の刺激に腰が浮いた。同時にブレーキがかかり、前方へ倒れ込みそうになる。咄嗟にドア枠をつかんで体勢を立て直したが、その動作だけで指が蜜壷を抉った。
「んんっ……!」
喘ぎ声を噛み殺しながら、必死で平常心を取り戻そうとする。けれど、一度燃え上がった炎は簡単に消せない。指は抜かないまま、スカートの裾を元に戻した。誰かに見られたら終わりだ──そう思いながらも、指の動きを止められない。
「あと……三駅……」
アナウンスを聞いて安堵と残念な気持ちが同時に襲った。電車が駅に停まるたびに人は乗り降りする。その間隔が絶望的に長く感じる。ホームの風景が流れる窓を横目に、再び自分の指で自分自身を責め始めた。
*(もっと……もっと激しく……)*
ぐちゅっ……ぢゅぷっ……じゅくじゅく……
水音が徐々に大きくなる。電車内のざわめきの中で消える音量を保とうとすればするほど、指遣いが大胆になる矛盾。左手でスカートの皺を直す仕草を装い、右手は狂ったように粘膜を掻き混ぜた。
呪文
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