漆黒のウェディングドレス
「爺、そのような顔をしないでください。決意が鈍ってしまいます……」
引き留めようとする老騎士をそっと振り払い、彼女は朽ちたドアに手をかけた。
かつては荘厳だったであろう礼拝堂の廃墟。一人の花嫁が黒百合のブーケを手に、瓦礫の散らばるバージンロードを祭壇に向かって歩いている。
王国の姫として育てられた娘は、これから魔王のもとに嫁がされる。
真っ直ぐ前を見つめる眼差し。これからの大変な人生に怯むことなく、固い決意を浮かべた表情。
王国の威信を掛けて用意された漆黒のドレスは幾重にも重ねたレースと、金糸・銀糸で丁寧に縫い込まれた刺繍で華麗に装飾されている。
「誰も居ないようですね……」
「ひ、姫様。まだ外は明るうございます。いささか早く来すぎたのではないかと」
呪文
入力なし