608 境界のタンゲスダム EP1.0「邂逅」
人の一生ではこの建造物の全体像を把握することなど到底不可能だろう。
だが、それでもこの次元防壁「タンゲスダム」は人類には…いや、この宇宙にはなくてはならない防波堤だ。
これがなければ、たちまち並行世界同士が互いに侵食し合い、あらゆる物質が不確かな確率の波に消えるだろう。
だからこそ、このタンゲスダムを維持すべく俺たち次元工員がいるのだ、とそう教わって生きてきた。
次元工員、なんて大層な役職が付いているが、何のことはない単なる補修工員だ。
ゼノ・ブライトロックはこの仕事に誇りを持っていないわけでは無い。
事象の濾過(フィルトレーション)、タンゲスダムが並行世界のノイズを取り除くプロセスに不調が見られれば全ては終わりだからだ。
そうなれば元も子もない。
世界を守る為、と言えば大層に聞こえるだろうが、それでも次元工員の誇りの源泉になるには十分すぎる。
だから、いつものように、仕事を始めるだけだ。
「PIPIPI」
傍らの自立型ロボット…フィルターがゼノを見上げ短い信号を発する。
ゼノは、そうだな、と返事をする。
フィルターの言う通り、この現場は何かが違う…言うなればあり得ないほど古臭い。
経年劣化、では無い…むしろ時代遅れの産物と言ったところか。
「…動力は生きている」
「PIP…」
壁のパネルを操作すると目の前の扉が鈍い音を立てて開く。
放棄されてどれだけ経っているのだろうか?
ゼノとフィルターは部屋に踏み入れる。
「信じられないだろうが、あり得た以上は事実ってことだろうな」
フィルターはまだ納得してないようだが、そう言いたいのは理解出来る。
タンゲスダムの外側の領域では絶えず次元の嵐が荒れ狂う。
その嵐に晒され続ければ、次元の錆となって消えるだけだ。
それはタンゲスダムに近付けば近付くほど、晒され続ければ顕著に現れる現象だ。
フィルターの疑問はそこなのだ。
古さの割に次元の錆の影響が極端に無い。
見たところ、技術レベルは前々時代のレベル…とっくの昔に消え去っているのが通説だ。
カツンカツンと暗い部屋に響く音。
二人は青白い光を放つ装置の前で足を止める。
「…女…の子……?」
「PIーPIPI」
この出会いが、世界の行方を左右する事を今はまだ誰も知らなかった……。
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次回
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呪文
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