プリンセス、夢崎椿咲の憂鬱
ここは西暦2500年から約1万5000年後の福岡。 邪神の事件以来、福岡国はすっかり平穏を取り戻し、魔王城の空気もどこかのんびりしていた。 だが、その静けさの中で――第2魔王女・椿咲の胸中は、決して穏やかではなかった。
* * * *
熊本の事件から帰されて……6月17日、火曜日。
葵とお姉様は、まほからの緊急招集を受けて、特級で熊本に戻られましたの……
「わたくし、か! ん! ぜ! ん! に! おいてけぼりですのーーーーー!」
ああ……ラーヴィ様に会えないどころか、皆様からも完全に置いてけぼり……
魔王城の空気は穏やかでも、わたくしの心は嵐のようですわ。
「まぁまぁ、そうぼやくな。邪神から解放されたとはいえ、椿咲も無理は禁物じゃからのぉ」
ルミィアにそう諭されては、ため息を吐く毎日……
わたくしだって、リリスから得た情報をもとに、きっとお役に立てたはずですのに……
「んもーーーー! 早く熊本の事件が解決して、わたくしもラーヴィ様とご一緒に過ごしたいですの! ラーヴィ様ぁぁぁ!」
わたくしの駄々に、呆れながら煙草を吹かすルミィア。すると、双子のエルフ、凛華と風華が――
「「ししょー、椿咲様もやけど、魔王様も最近元気ないっちゃけど……」」
……お父様? あの方のことなど、知りません!
「あんの、馬鹿お父様ったら! 添い遂げた美沙女王を振ったくせに、月菜様と母に関係を持っておきながら! 今も『妹』として美沙様に親しくするなんて……どんな神経してるんですの!」
振ったのなら、親しくしないで置いて欲しいですわ! ホントに! ホント!
ああ! もう! なんだかむしゃくしゃして、何か嗅ぎたくて仕方ありません!
「凛華! 風華! 余計なことを言うでない! 儂にとばっちりが! あ! ああああ!」
わたくしは我慢ならず、ルミィアに馬乗りになり、煙草の火を手で握りつぶしました。
そして、彼女の衣服に鼻を近づけながら――
「ルミィアのニコ臭でもかぐしかありませんわね! ついでに、体臭も! 今日はこれで我慢しておきますわ!」
「ぬわーーーーーーー!」
……ああ、今日も福岡は、平和なようです……わたくしの心を除いて。
「ぬわーーーーー! また椿咲からディスられた気がする!」
呪文
入力なし