本日のランチ
梅雨の空はまだ重い。けれど、昼どきの店先には、少しだけ風が通っていた。引き戸を開けると、厨房の奥から魚の焼ける香りが届く。昨日の揚げ出し豆腐のやわらかな出汁とは違う、香ばしさのある昼の気配だ。
今日の一膳は、鯵の青じそ胡麻焼きと焼き茄子御膳。
客席に置かれた主皿には、焼き目のついた鯵が横たわり、その上に青じそと白胡麻が散っている。隣には焼き茄子。紫の皮目と、ほどけるような身の色が、白い皿の上で静かに光っている。大根おろしと酢橘が添えられていることで、焼き魚の香ばしさに涼しい逃げ道ができている。
まず鯵に箸を入れる。皮目は香ばしく、身は思ったよりふっくらしている。青じそが最初に鼻へ抜け、すぐ後から胡麻の香りが追ってくる。梅は使っていない。だからこそ、鯵の旨みと脂の輪郭がまっすぐに出る。
白胡麻の粒感がいい。噛むたびに小さく香りが立ち、青じその青さと重なって、焼き魚全体を軽くしている。そこへ酢橘を少し絞ると、皮目の香ばしさが一段明るくなる。大根おろしを合わせれば、脂の余韻がすっと整う。
焼き茄子は、鯵とはまた別のやわらかさを持っている。箸で持ち上げると、身が静かに沈む。焼き目の香り、茄子の甘み、少しの生姜。魚の香ばしさの横で、茄子が梅雨時の湿度を受け止めてくれる。
白ご飯を挟むと、青じそと胡麻の香りがもう一度立ち上がる。濃い味で押す焼き魚ではない。だが、香りと焼き目で米を呼ぶ力がある。こういう皿は、昼の定食として強い。
小鉢の冷やしトマトの出汁びたしは、赤い酸味で膳に明るさを足す。豆腐とわかめの味噌汁は、焼き魚の後に落ち着きを戻す。胡瓜の浅漬けは、最後に青く軽い音を残す。
昨日は、揚げ出し豆腐と夏野菜のみぞれ出汁。白い大根おろしと出汁の艶で、豆腐をやわらかく包む一膳だった。今日はそこから、鯵の焼き目、青じそ、胡麻、焼き茄子へ。週の締めにふさわしい、香ばしく落ち着いた御膳になっている。
鯵の焼き魚は、何度も食べてきたはずの料理だ。それでも、青じそと胡麻の使い方ひとつで、初夏の顔になる。焼き茄子が添えられることで、皿の余韻にも湿度と涼しさが生まれる。
6月第3週の締めに、派手な驚きではなく、焼き目と薬味の確かな満足を置く。こういう終わり方は、悪くない。
次回は「鶏手羽と冬瓜の生姜煮御膳」。鯵と焼き茄子の香ばしい御膳から、鶏手羽と冬瓜を生姜で煮含めた、温かい鉢物へ。焼き魚の余韻の先に、今度はやさしい鶏だしと冬瓜の透明感が待っている。
田嶋達郎
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