エルエアロウ説話
漁のさなか高波に遭い船から投げ出され海の中へ沈んでしまった。
ふと気が付くと、小さな島に流れ着いていた。
ペセンドラでも、リジニアでも、メレナームでもない。
島はとても静かであった。
波の音がしないはずはないのだが聴こえない。
小さな池を見つけたレミールはそれを覗き込んだ。
太陽が映っている。
レミールが池に映った太陽を見つめていると、水面が揺れて声を立てた。
『私は天から【見ている者】(アルテス ヤ)である。
私を見るのは誰か。』
「私は、ペセンドラのレミールです。
海で難渋をして流れ着いたのです。」
『レミール、東の空に浮かぶいくつかの星をご覧なさい。
あのなかのいちばん右が、おまえのいた星ですよ。』
「すると、私はやはり死んだのですか。
私はどうなるのですか?」
『池の中へ進みなさい。そこにあるのはおまえと同じ死せる者たちのかけら【パ】である。
おまえはこれからそれらと混じり合って、私の統べる様々な世界を巡るのです。』
「なんですって!他のひとたちのパと混ざり合うなんて、どういうことです?」
『生きとし生けるものエルエアロウが生まれ変わるとき、みなあまねく世界のソルパと混じり合い、変化するのです。
それは旅の途中で出会った者と交わって自分が変わっていくこととそんなに変わるものではない。
恐れることはない。
星々を巡って自分の生まれるべき世界を見つけなさい。』
レミールは池の中へ進み、その水と混じり合った。その時初めて、自分が肉体を失っていることに気づいた。
太陽は優しく輝きを増し、池の水を温めて天に送った。
───
リジニア教会部教会課
───
───
太陽はもともと「モル」と呼ばれていて、いまもそうなのだが
ルヴァン王国では、神であるロゥ(確かなるもの)が
私は『天から観ている』と言ったことから
太陽を【観ている者】アルテスヤと呼んで習合した。
この話はリジニア時代初期に火山のない世界にあわせてソルパ思想を説くために創作された話で、何度か書き直されたもの。
この版は、天文学者たちがこの世界を
「星系アルテスヤ」(アルテスヤ エアロゥ)
と呼ぶことを決めた時期のもので
そのときどきの錬学派や伝承派の思惑が込められている。
もともとはバルスカの中に納まる唯物論に過ぎなかったルヴァン人の死生観が、
ここから星系アルテスヤの星々にまたがるファンタジーへと変化し、さまざまな派生をして、アルテスヤ神話を形成していく。
呪文
入力なし