【マタタビ】25.助っ人
【マタタビ】24.グリルスの願い
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大蛇の頭蓋骨が砕ける音が辺りに響いた。しばらくの間、大蛇の尻尾がのたうち回り、やがて静寂が訪れた。衝撃で舞い上がった砂埃が消えると、大蛇の頭部を潰した鉄球の上に、人影が見えた。そこに立っていたのは、ピンクのツインテールをしたメイド服姿のシンカロンだった。
「シルエラ!」
俺は、その姿を見て叫ぶ。
「ご無事ですか? ご主人様、お嬢様!」
シルエラはそう言うと、鉄球から飛び降り、俺とシロの前に着地する。
「ああ、俺もシロも無事だ!」
俺は、シルエラに返事をする。
「それは何よりです。後は、私にお任せください」
そう言ってシルエラは、俺とシロをかばうように、フィズィの前に立つ。
「戦えるのか?」
俺は、シルエラの後ろ姿に問いかける。
「もちろんでございます。私は、バトラー型のシンカロンですよ?」
そう言って振り返り、笑みを見せる。なんとも頼もしい。
「頼んだ。俺は、シロの側にいる」
「かしこまりました」
そして、シルエラは、フィズィに向かって一礼し、笑顔で挨拶をする。
「ごきげんよう、マダム」
対してフィズィの顔は、怒りに震えていた。
「よくも、私のウロボロスちゃんを……! あなた、一体何者なの?」
シルエラは笑顔で答える。
「私は、シルエラ。かつてはバトラー型シンカロンとしてお屋敷で働いておりました。今は、メイドカフェ“ポームム”のしがないメイドでございます」
自己紹介と共に胸に手を当て、恭しくお辞儀をする。
「バトラー型シンカロンですって? 旧時代の遺物が、なんでしゃしゃり出てくるのよ!」
「それはもちろん、ご主人様とお嬢様の危機ですから」
シルエラは、そう言うと手にしていた鎖を引く。その先は、大蛇の頭部を潰した鉄球につながっており、鉄球がずるずるとシルエラの方に引き寄せられる。バトラー型シンカロンは、有事の際の“潜在的脅威に対する実行力”として、威圧的な武装が施されていると聞くが、シルエラが操っていたのは、柄と鉄球が鎖でつながっている巨大なモーニングスターだった。こんな巨大な武器をあんな華奢な体で操るとは、さすが崩壊前の科学技術で作られたハイエンドタイプのシンカロンだ。
「懐かしいですね……。お屋敷に入り込んだ害獣駆除も、私の仕事だったのですよ」
シルエラは、思い出話を語る。
「そう言えば、害獣駆除の際に、不可抗力で巻き込まれて、お亡くなりになってしまったお客様もいらっしゃいましたね。あなたも、お気を付けください」
そう言って、モーニングスターの柄を握りしめる。
「ご忠告ありがとう。でもその心配はいらないわ」
フィズィはそう言うと、修道服の中から短剣を取り出した。
「自分の身は、自分で守りますから!」
そう言って、シルエラに向かって飛びかかる。同時に、空中に浮かんでいた二つの眼球が、シルエラの目の前に移動した。まずい。あの眼球と目を合わせると、金縛りで体を動かせなくなってしまう。だが、俺の心配は杞憂に終わった。
シルエラは、フィズィの攻撃を横に回転してかわし、その回転力で鎖につながった鉄球を持ち上げ、フィズィに向かって投げつけた。フィズィは、飛んでくる鉄球を間一髪でかわす。
「どうして動けるのっ!?」
フィズィが、驚愕の声を上げる。シルエラは、余裕の笑顔でほほ笑む。
「簡単なことです。私が、あなたよりも強いからですよ」
「何ですって?」
「その眼球は、恐怖を感じた対象を一時的に動けなくすることができるのでしょう? ですが、私があなたに恐怖を感じることはありません。なぜなら、あなたよりも私の方が強いからです」
シルエラは、フィズィに向かって挑発するような笑みを浮かべる。
「余裕でいられるのも今のうちよ!」
フィズィは腕まくりをし、全身に力を込める。するとフィズィの全身の筋肉が盛り上がり、肉体が一回り大きくなる。そして、地面を蹴り、もの凄い勢いでシルエラに向かって突進してきた。しかし、シルエラは動じない。彼女はモーニングスターを振り回し、鉄球が空気を切り裂く音が響き渡る。シルエラの戦い方は、まるでダンスを踊るように優雅で、それでいて破壊的な力を秘めていた。
「ご主人様に害なす者には、鉄槌を!」
シルエラが叫び、モーニングスターを振り下ろす。フィズィは辛うじて身をかわしたが、逃げ遅れた眼球が、鉄球に押しつぶされる。
「ぎいゃぁぁぁ! 目が、目がぁぁぁぁあっ!」
フィズィは、両目があったはずの顔面のくぼみを両手で抑えて叫ぶ。フィズィは、しばらくの間悶え苦しんでいたが、ゆっくりと立ち上がる。
「ハァ、ハァ……。確かに、あなたは私よりも強い。私の負けです……」
フィズィは敗北を認めた。だが、彼女の野望はまだ終わってはいなかった。彼女は静かに息を整え、不敵に笑った。
「ただ、これから訪れる未来は変わりません!」
シルエラの戦いに気を取られていたが、気が付くと、先ほどまで神の繭の周りで儀式を行っていた仮面をつけた修道女たちが、頭部を潰された大蛇の周りに集まっていた。
「まずい!」
俺は、最悪の事態に思わず声を上げた。あの大蛇は、グリレを丸呑みにしていたが、それ以外にも腹の中には、今まで喰らってきた人間のエネルギーが蓄えられているのだろう。フィズィたちは、最初からこうするつもりだったのか。
「もう遅い!」
フィズィは、狂気の笑みを浮かべ、声高らかに祝詞をあげる。
「神よ! ウロボロスを生贄に、復活したまえ!」
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(次の話)
【マタタビ】26.星の樹
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