ノーマ・ジーンさんを天国からビーチに招待してみた4
何をするわけではないが、ビーチにカーペットを敷いて飲み物を片手にゆったりとした時間を過ごす。
「楽しい?」
俺が聞けば彼女ははにかんだ。
「ええ、とても」
波音しか聞こえないビーチで水平線を眺めながら彼女は語る。
「私って生きることに必死で、仕事をしていても敵ばかりだったし、1分1秒たりとも弱みは見せられなかったわ。それに私は女優としてやっていきたかったのだけど知らない間に私の虚像が大きくなっていて、女優としての私の仕事までも食い始めた――」
そう語る彼女は寂しげだ。
「わかるよ。君の現役だった時代、女優の地位は考えられないほど低かった。今はそういうことに対して堂々と意見を述べられるけど君の時代はそんなことをすればたちまち追い詰められる。僕は君のファンだからわかるけど、君の人生は戦いの連続だったからね」
俺がそう語った時、彼女はその体を僕に預けてきた。
「あなた誰かに似てると思ったらジョーに似てるのね」
「ジョー? ああ、ジョーディマジオさんか」
「ええ、どちらかというと雰囲気がね」
ジョーディマジオ、彼女の元夫で有名な大リーガー、まさにお似合いのカップルだったが不幸にして袂を分かつこととなった。それでも交際の再会と復縁を考えていたくらいお似合いのカップルだった。
「もしかしたらあなたは知らないかもしれないけど」
「え?」
「あなたが亡くなった後も、彼、毎年のようにあなたのお墓に花束を捧げているそうですよ」
彼女は沈黙を守ると涙を流した。そして俺の腕の中ですすり泣いたのだった。
呪文
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