【短編小説付き】森を抜けると、そこは兎たちの楽園だった
その男は狩人だった。
弓で獣を狩り、その亡骸から肉と皮を剥ぎ取って日銭へと替える稼業。
鉈で藪を切り開きながら、森の奥深くへと分け入っていく。
今宵の彼の標的は、“兎“である。
この国で兎の肉と皮は、高貴な者たちに愛好されて高値で取引されている。
小さな兎を狩れば一日飲むのに困らない額の銭が。
でっぷりと太った兎を狩れば、働かずに一週間は遊べるだけの銭が手に入る。
しかし、乱獲の影響で兎は森からその姿を消しつつあった。
今では週に一羽獲れれば良い方で、月に一羽も獲れなかった話も珍しくない。
そんな折に、彼はある一つの噂話を耳にしてこの地へと足を踏み入れた。
『東の森の奥には、夜にしか現れない兎たちの楽園があるらしい』
そこでは何十羽、何百羽もの上質な兎が群れを成している。
柔らかく肉厚のあるどれだけ食べても食べ飽きない白兎。
上質な絹ですら遠く及ばない肌触りの皮を持つ黒兎。
他にも見たこともないような豊かな種々の兎が……。
彼は、飲み仲間からそんな話を聞いた時は馬鹿馬鹿しいと一蹴した。
しかし、夜になって床に就こうとした時に、彼は突如として思い立ったように狩りの準備をして東へと向かった。
そうして辿り着いた東の森の奥。
彼はついにその深奥へと辿り着いた。
藪を切り開いて、森の外へと出た瞬間に夜とは思えないような眩い光に包まれた。
なんだこれは! 魔物の攻撃か!?
瞼を貫くような光に耐えて、何とか目を開くと――
「「「野外ナイトパブ『兎源郷』にようこそ~!!」」」
兎の大群が、彼へと向かって声を張り上げた。
森の奥に開かれた広大な空間。
目が痛くなるような色彩の光が煌めき、耳が痛くなるような喧騒が渦巻いている。
なんだここは、なんなのだ。
東の森の奥には、兎の楽園がある。
あった。確かにあった。
豊かなでむっちりとした肉を蓄えた桃色毛の白兎。
絹よりも細やかで、見ただけでその極上の触り心地が想像できる金色毛の黒兎。
警戒心を持たず、まるでよく懐いた飼い犬のように愛想よく振る舞う青色毛の兎。
噂に違わぬ多種多様の上質な兎。
しかし、それらは全て兎のような装いに身を包んだ若く麗しい女たちだった。
狩人が立ちすくんでいると、先に見た一羽の白兎が歩み寄ってきた。
長い波打った桃色の髪に、丸々とした大きな目。
そして何よりも豊かという言葉ですら足りない程の蠱惑的な肉体。
着ている白い服は、その肢体を隠すにはあまりにも心もとない。
歩く度にまるで兎のように乳房が跳ねている。
「いらっしゃいませ。はじめての方ですよね?」
何がなんだか分からないと困惑しながらも、男は小さく首肯する。
「では、ご案内させて頂きますね」
白兎はそうするのが当然だというように、男の腕に自分の腕を絡ませて狩人を楽園の中へと誘う。
歩きながら狩人が周囲を見渡す。
広大な敷地に、野外酒場のような区画が乱雑に設けられている。
そこら中に自分以外にも大勢の男たちがいる。
他国からも着ているのか、非常に珍妙な出で立ちをしている者も。
その誰もが皆、男の数よりも多い兎を侍らせながら享楽に耽っている。
「こちらにお座りください」
狩人も、その一角にあるテーブル席へと座らされた。
二人掛けの隣に、白兎も身体を密着させて相席する。
「ここは『兎源郷』。遍く者たちの欲望を満たす楽園です。貴方が望むのであれば、どのような願いも叶えることができます」
説明の最中、それも当然というように男の前に透明な容器に入った飲み物が置かれた。
エールとよく似ているが、透き通るような琥珀色に雲のような真っ白な泡が立っている。
「さあ、どうぞ。お飲みになってください」
桃色髪の白兎が、男に向かってそれを差し出す。
一瞬だけ逡巡するも、彼は持ち手を掴んでそれを一気に喉へと流し込んだ。
氷のように冷たく芳醇な香りの液体が、口から喉へ、喉から胃へ。
心地よい刺激が駆け抜けていく。
一拍置いて、程よい酩酊感。
これだけ美味い酒を飲んだのは、人生で初めての体験だった。
「どうですか? 美味しいですか? それは良かった」
まるで自分のことのように、白兎が嬉しそうな笑みを浮かべる。
夢か現か、あるいはただの楽園か。
何にせよ、男の意思は既に決まっていた。
この享楽からは決して逃れ得ぬと。
「あぁ……すごい飲みっぷり……男らしくて素敵です……」
次から次へと運ばれてくる酒を全て飲み干した。
「はい、あ~ん……美味しいですかぁ?」
一国の王でさえ知らぬような御馳走を端から端まで平らげた。
「もう、お触りはほどほどに……ですよ?」
どの様な美酒も美食も敵わぬ極上の女体を両脇に侍らせた。
そして、極めつけには――
「賭け事はお好きじゃありませんか?」
狩人が『いいや、大好物だ』と答えると、白兎は彼を賭場へと案内する。
この楽園の賭場には、彼の知らぬ遊戯ばかりが並んでいた。
しかし、軽くルールを説明してもらっただけで彼はそれを理解できた。
数多の賭場を渡り歩いてきた歴戦の実力、狩人として磨いた野生の勘。
加えてここに来てからずっと上り調子の彼は、勝ちに勝ちまくった。
その欲望の丈を表すように、色とりどりのチップが彼のテーブルに積まれていく。
大勝してご満悦な彼が小休止を挟んでいると、席を外していた白兎が帰ってきた。
「わぁ! すっごい勝ちましたね! すごいすご~い!」
対面の相手が見えなくなるほどのチップの山を見て、彼女は素直に驚いた。
狩人も鼻高々に振る舞っていると、ふと白兎が小声で漏らした。
「これだけあれば……いけるかな……?」
どうしたと狩人が聞き返すと、白兎は周囲を気にしながら彼の耳元で囁く。
「えっと、その……実は特別な人しか入れないVIPルームというところがあるんです。少しお金はかかるんですけど……」
びっぷるーむ。
言葉の意味は分からなかったが、他の施設と一線を画した場所なのだと狩人は察した。
しかし、既にこれ以上にない程の欲望が叶えられている。
一体、そこではどんな欲望を叶えてくれるのかと彼は当然聞き返す。
すると白兎は頬を朱色に染めて、こう囁いた。
「男の人が、一番好きなことができますよ……」
――VIPルーム編(R-18)に続く。
◆◆◆◆◆
続きとなるVIPルーム編(R-18)を公開しました。
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