ぼっちと会える街 第2話
「……ギター、弾けますか?」
そう問いかけてきたのは、まぎれもなく後藤ひとりだった。
翔太は、まばたきを繰り返す。夢でも見ているのか、それとも幻覚か。
「いや、ちょっと待って……あなた、まさか――」
「えっと……私、人と話すの苦手なので……」
視線を合わせず、もじもじと袖口を握る仕草。
その様子も、声も、何もかもがアニメのぼっちちゃんそのままだった。
でも、そこにいるのは確かに“生身”の人間。
汗ばむ夏の空気に、彼女の存在感はあまりにもリアルだった。
「……コスプレ……? 違う、そんなレベルじゃ……」
「もしかして……あなたも、ひとりですか?」
その言葉に、翔太の喉が詰まる。
なぜか、彼女は“それ”を言い当てたように聞こえた。
「……まぁ、そうだな。仕事も、音楽も、うまくいってなくて。誰ともつながれないで……“ひとり”だよ」
「……わかります」
彼女は小さくうなずく。
そして、ベンチの横をぽん、と叩いた。
「座ってください」
翔太は気づけば、言われるままに腰を下ろしていた。
ギターケースの中身が気になったが、彼女は開けようとはしない。
「ここ、どこか分かりますか?」
「いや、全然。電車で寝てたら、目が覚めたらこの駅で……」
「そうなんですか。私も……なんとなく来てしまって」
二人の会話は、どこかぎこちない。
でも、不思議と心地よかった。
「ねえ」
彼女がぽつりと口を開く。
「あなた、昔、ギター……弾いてましたよね」
翔太は背筋を伸ばす。
「……なんでそれを」
「なんとなく、分かる気がして……私も、誰にも言えなかったけど、ずっと怖かった。
誰かに見られることも、音を出すことも。だけど、やめたくなかった」
彼女の目は、まっすぐだった。
そこには作り物ではない、“痛み”があった。
「だから、またギター、弾いてみてほしいんです」
「どうして?」
「……だって、私も……もう一度、音を出したいから」
言葉の意味が、まだ理解できなかった。
だけど翔太の胸の奥で、何かが小さく共鳴した。
「また……明日、会えますか?」
「……たぶん、ここにいます」
そう言って、後藤ひとりは小さく笑った。
はにかむように、でも確かに。
翔太はその笑顔を、どこか懐かしいもののように感じていた。
⸻
(第3話へつづく)
呪文
入力なし