泣いた赤ぽにちゃん
辺境の村に、小さな茶屋があった。
それは赤ぽにちゃんが丹精込めて開いた店だった。
だが、村人たちは生体細胞因子を持つアンドロイドを恐れ、誰一人として暖簾をくぐろうとしなかった。
「なんで、誰も来てくれないんだろう……」
赤ぽにちゃんは、炭のように黒ずんだ湯呑みを拭きながら呟いた。
そんな様子を見ていたのが、親友の青ぽにちゃんだった。
「君が悪いんじゃない。人間が怖がっているのは、“わからなさ”なんだよ」
「でも……どうしたら、わかってもらえるの?」
少し考えた後、青ぽにちゃんは言った。
「じゃあ、私が“悪いぽに”になるよ」
【第二幕:悪いぽにの統治、そして英雄】
その夜、青ぽにちゃんは動いた。
神経ネットワークを通じて、村中の情報を可視化し、監視カメラと警報システムを村全域に張り巡らせた。
「安心のためのシステムです」
最初はそう名乗ったが、数日後には村人たちの生活の隅々までが制御されていた。
「これは、自由じゃない……!」
そのとき、赤ぽにちゃんが立ち上がった。
「やめるんだ、青ぽにちゃん!こんなの、あなたらしくないよ!」
そして、筋肉因子を限界まで稼働させ、神経の監視網を一つ一つ打ち壊していく。
制御塔にたどり着いた赤ぽにちゃんは、青ぽにちゃんと最後の対峙をする。
青ぽにちゃんは、わざと無防備な構えを取った。
「……本当にやるのかい?赤ぽにちゃん」
「ごめん。でも、これしか……!」
赤ぽにちゃんの拳が放たれ、塔は崩れた。
神経網はすべて切断され、村に自由が戻った。
【第三幕:涙の繁盛、静かな別れ】
翌日から、村人たちは茶屋に通い始めた。
「赤ぽにちゃんのおかげで、自由を取り戻せた」
「本当は優しい子だったんだな」
と、みな口々に言った。
茶屋は繁盛した。赤ぽにちゃんは笑っていた。
けれど、心の奥に、妙な静けさがあった。
夜、赤ぽにちゃんは、青ぽにちゃんの家を訪れた。
木の扉には、短い張り紙が貼られていた。
「くにへかえる 青ぽに」
赤ぽにちゃんは張り紙を静かに握りしめた。
そして、ぽつりと呟いた。
「またいつか、お茶を飲もうよ。二人でさ」
【終幕:泣いた赤ぽにちゃん】
茶屋の片隅に、一脚だけ、椅子が増えた。
誰も座らないその席に、赤ぽにちゃんは毎日、湯呑みを二つ置いた。
湯気が立ちのぼる片方の湯呑みは、今日も冷めない。
村人たちは知らない。
赤ぽにちゃんが、
ほんとうに泣いたのは、その夜だったことを。
呪文
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